八段合格者の手記【上】令和元年5月1日〜2日審査合格者|審査当日の心境と審査に備えての稽古

インタビュー

令和元年5月1日〜2日に京都市・ハンナリーズアリーナで行なわれた剣道八段審査。見事合格を手にした剣士に、審査当日の立合について、そして積み重ねてきた稽古について、手記をお願いした。(年齢は審査当日|本記事【上】は1日の合格者の1部です)

 

若林 耕多 (わかばやし こうた)

埼玉・48歳

プロフィール
【生年】1970年12月
【出生地】東京都文京区
【始めた時期】小学2年生
【始めた場所】鷲宮剣道クラブ
【経歴】埼玉県立蓮田高等学校→東武鉄道(株)
【現職】東武鉄道(株)施設部杉戸工務施設管理所(野田市)所員
【薫陶を受けた師】
山中茂樹先生をはじめ埼玉県剣道連盟の先生方
加庭栄之助先生をはじめ久喜剣道連盟・鷲宮剣道クラブの先生方と生徒たち
剣道を通じて仲良くさせていただいている剣友たち
碩山哲弘先生、(故)戸賀崎正道先生
【大会での戦歴】
特にありません

「先生方から受けた指導の実践と継続」と「力を抜くこと」を意識して稽古

■八段審査を振り返って

埼玉県剣道連盟の先生方、久喜剣道連盟・鷲宮剣道クラブの先生方と生徒たち、剣道を通じて仲良くしていただいている剣友たち、本当にたくさんの方々と稽古させていただいたことが今回の昇段に繋がったこと、この場をお借りして厚くお礼申し上げます。

■当日の審査を振り返って

今回に限らず審査で意識していたことは、審査前日までは「私自身これ以上はない!」 と思えるくらい稽古し、審査当日は「力を抜くこと」と「いつもどおり」の二つを軸に挑みました。

正直、審査直後は立合の内容をほとんど覚えておらず、友人が撮影してくれた動画を見ることで少しずつ思い出してきたといったような感じでした。審査全体を通して下がらなかったことと、終始相手に集中できたことがよかったのかなと思っています。

日頃の稽古で心がけていることは、「先生方から受けた指導の実践と継続」「力を抜くこと」を意識しておりました。これらは、これからも変わらず稽古を積んでいく所存です。また、どうにか稽古時間を捻出するために、夜勤までの仮眠時間を削って稽古しておりましたが、これはお勧めできません。もう一つは毎朝5分~10分、本数は決めず木刀で素振りをしています。これも今後変わらず続けていきます。

これまで共に稽古いただいた方々に重ねて感謝申し上げますとともに、これまで以上に剣道修行に努めて参ります。ありがとうございました。

 

篠田 透(しのだ とおる)

岐阜・60歳

プロフィール
【生年】1958年11月
【始めた時期】小学2年生
【始めた場所】雙柳館浅川道場
【経歴】日耐訓練高校→日本耐酸壜工業株式会社
【現職】(公益財団法人)大垣市体育連盟職員
【薫陶を受けた師】(故)浅川春男先生、(故)嶽崎操先生、林邦夫先生、祝要司先生
【大会での戦歴】
全日本実業団大会準優勝1回、3位1回
全日本実業団高壮年大会六・七段の部個人優勝
全日本東西対抗大会出場
国民体育大会出場2回
全日本都道府県対抗大会出場10回

自ら考えた「稽古の心得10ヶ条」を守って日々の稽古に取り組んだ

■八段審査当日を振り返って

八段審査において今回13年目、26回目(二次審査15回目)の受審で合格させていただきました。これも諦めない気持ちを強く持ち続けたことと、ご指導をいただいた諸先生方や先輩、また後輩の部員等、皆様のおかげだと感謝しております。昨年の11月で日本耐酸壜(株)を定年退職してからも、会社の道場や剣友会・支部の稽古会等に参加させていただき、稽古量も増えたことがよかったと思います。

二次審査は、大変高い壁を越えなければ合格が達成できないと思い続けてきました。過去の審査では平常心が乱れなかなか思うように主導権が取れず、そのまま時間が過ぎ終わってしまうことが何度もあり、その反省をふまえて臨みました。初太刀に少し迷いが生じましたが、気迫をもってとにかく大きな声を出してやろうと立合前から考えていました。

そうしたことにより緊張感がほぐれ、集中力が得られて平常心となり、間合がつかめ攻め勝って打つことができたことで、有効打突につながったと思います。

■合格につながった稽古法

八段審査に何度も挑戦するにあたり、自分自身で考えた稽古の心得10ヶ条に基づいて日々剣道の稽古に取り組み実施してきました。

稽古の心得10ヶ条
1、健康である事。
2、ケガをしない事。
3、稽古前は必ず準備体操・ストレッチをする事。
4、素振りは、一挙動全力で行う事。
5、切り返し・基本打ち込みは大強速軽でする事。
6、地稽古は、初太刀を取る事。
7、上手(うわて)に掛かる事。
8、出稽古を極力増やし積極的に行う事。
9、稽古後はクールダウンをやる事。
10、稽古後は反省して次に繋げる事。

この10ヶ条を合格後も常に実践し、初心を忘れず取り組んでいきたいと思います。

 

 

平田裕亮(ひらた ひろあき)

大阪・47歳

プロフィール
【生年】1971年6月
【出生地】香川県仲多度郡まんのう町
【始めた時期】小学3年生
【始めた場所】直心館千葉道場
【経歴】琴平高校→国士舘大学→大阪府警察
【現職】大阪府警察一般職員/剣道副主席師範
【薫陶を受けた師】千葉宝男先生、井上孝先生、長尾泰宏先生、大林誠二先生、
国士舘大学各先生方、大阪府警察各先生方
【大会での戦歴】
全国警察大会優勝2回
世界選手権大会出場2回/個人ベスト8、団体優勝
全日本東西対抗大会出場4回

いろいろ考えずに心を無にして、一生懸命立ち合うのみだった

このたび合格させていただきましたことは、これまでにご指導していただいた諸先生方、先輩、同期、後輩、皆様方のおかげだと心より感謝しております。

今回、三度目の八段審査でしたが、特別注意したことはありません。

ただ、当日は、いろいろ考えずに心を無にして相手に一生懸命立ち合うのみと臨みました。

今後より一層精進し、微力ではございますが剣道の発展に向け、少しでも貢献できればと考えております。

 

 

米田義一(よねだ よしかず)

兵庫・72歳

プロフィール
【生年】1947年3月
【出生地】大阪府豊中市
【始めた時期】中学1年生
【始めた場所】大阪市立摂陽中学校
【経歴】PL学園高校→関西学院大学
【現職】無職
【薫陶を受けた師】(故)川上徳蔵先生、(故)上辻熊夫先生、(故)松本敏夫先生、(故)井坂賢一郎先生、
宮崎昭先生、兵庫県剣道連盟師範の先生方
【大会での戦歴】
全日本学生選手権大会出場1回/ベスト4=1回
関西学生剣道選手権大会出場3回/2位1回
国民体育大会出場4回

900人受審者がいても、一次の2人、二次の2人だけに集中した

家族や周囲の期待を強く感じつつ審査に臨むが、過去の審査では、他の受審者の存在や多数の観衆の存在による過度の緊張状態で集中力が散漫となり、失敗を繰り返してきた。

今年3月に開催された八段受審者を対象とする講習会に参加、他県から小坂達明先生に講師としてお越しいただき、講話の中で「900名近くの受審者が来ているが、立合する相手はまずは2名、続いて2名です。他は自分とは関係のない相手であり、4名に集中することが大事です」とお話があった。

一次組み合わせの発表場所には過去に立合をした方々がおられた。また立合をするのではと思いつつも、まず誰であれ2名に集中した。二次審査までの間、精神統一を行ないつつ気持ちを持続し、一次と同じように集中して二次審査に臨み立合ができたことが、合格できた大きな要因と思っております。

 

 

椚原弘一(くぬぎはら ひろかず)

奈良・62歳

プロフィール
【生年】1956年9月
【出生地】奈良県奈良市
【始めた時期】 中学1年生
【始めた場所】奈良市立春日中学校
【経歴】奈良県立奈良工業高校→近畿大学→共同プリント(株)→武道工房 一貴
【現職】武道工房 一貴代表
【薫陶を受けた師】
(故)範士九段・西川源内先生、(故)範士八段・木戸高保先生、(故)範士八段・賀来俊彦先生、(故)範士八段・松田勇吉先生、(故)範士八段・清藤幸彦先生、範士八段・井上茂明先生、範士八段・上垣功先生、範士八段・松田勇人先生、(故)教士八段・西田照夫先生、上田寛之先生
【大会での戦歴】
全日本学生選手権大会出場
国民体育大会出場3回
全日本都道府県対抗大会出場

普段の稽古を出し切れば合格するという気持ちで臨んだ

奈良・鴻ノ池道場で稽古をしております。範士八段・井上茂明先生、範士八段・松田勇人先生をはじめ諸先生の指導の下、普段の稽古が審査と重なっており、審査で作る必要がありませんので、普段の稽古を出し切れば合格するという気持ちで臨みました。

審査が近くなるにつれ、構えを意識して臨み、美しい着装を心がけました。先生方のご指導に従い、自分なりにいろいろ考えながら稽古をし、打突することばかりを求めず、相手と合気になりながら真っ向から正面を打ち抜くことを心がけました。

審査2週間ほど前に、井上先生から残心がないと指導していただき、松田先生からは面を誘っているのが見えると指導していただきました。

審査当日の一次審査は第8会場で一番の気迫で臨む気持ちで行ない、合格できました。二次審査は先生方に稽古をお願いしている気持ちで臨もうと心がけました。

今回合格させていただきましたことは、鴻ノ池道場の先生方をはじめ、奈良県剣道連盟の諸先生、普段親身になって真剣に稽古をつけていただいた剣友の皆様方のおかげです。まずは感謝申し上げます。

 

 

平川龍馬(ひらかわ たつま)

広島・64歳

プロフィール
【生年】1955年1月
【出生地】広島県尾道市
【始めた時期】 小学5年生
【始めた場所】尾道かもめ会
【経歴】盈進高校→東洋大学→広島拘置所
【現職】刑務官/広島矯正管区成人矯正第一課警備指導官
【薫陶を受けた師】
(故)中西康先生……小学生、中学生と教えを受け、一般人となっても師事
津田正臣先生……高校生以降、現在に至るまで師事
(故)西善延先生、(故)下村清先生……警備指導官となり師事
【大会での戦歴】
全日本都道府県対抗優勝大会出場1回
全国矯正職員武道大会施設対抗試合出場6回/優勝1回
全国矯正職員武道大会選手権試合出場3回

直心影流の木刀による素振りで、大きな構えと右手・左手の作用を会得

■八段審査を振り返って

審査当日は、早めの準備運動、基本稽古を実施し、審査前は他を意識せず相手に集中し、兆しを作り、兆しを打つ、自分の剣道をやりきることのみを意識しました。

自己評価については、一次審査では一人目の初一本を、ためが不充分だったため相手に良い機会を打たれました。この一本を打たれたことで吹っ切れ、それ以上の攻めと相手に集中することで、兆しを作ることができ、良い機会を打つことができました。過去、4回二次審査に行っておりますが、良い所を出そうとするあまり内容が貧弱になっていたと反省しておりましたので、一次審査同様、相手に集中し、辛抱強く兆しを作り、兆しは逃さない気持ちで立ち合いました。

■効果的だった稽古法

稽古の際はなるべく、切り返し、基本打ち、打ち込み稽古を欠かさないようにしております。これは、打ち切ることと体のさばきを会得するため、常に心がけております。また、道場外での素振りは、直心影流の木刀で素振りをするようにしております。これは、右手の作用、左手の作用が会得でき、構えを大きくすることができると考えているからです。以上参考にしてください。