剣道部時代を振り返る
学生時代に一生懸命打ち込んだことは、年を取って大人になってからもずっと心に残っているものです。
今回は、かつて剣道部員として部活に打ち込んでいた人たちに当時を振り返ってもらい、剣道にまつわるエピソードをそれぞれ語って頂きました。
■日常で”剣道”を意識した瞬間
素早くササっと整列
小学生の頃だったと思いますが、体育の授業で整列をしている時に、他の友人たちはのんびりとしているのに自分だけがササっと駆けつけて等間隔をとり、顎をひき背筋を伸ばして体育の整列をしている自分に気づき「あっ」と我に返りました。
常に整然とした動きをする自分に気付き、もはや習慣として体に染み付いていたんだなあ、と思った瞬間です。
マナー完璧小学生!?
両親や目上の人、友達、年下の人、老若男女問わず話をしている時も、相手に対し「目」を見て話すことが癖になっていました。師範や先輩方に口酸っぱく言われていた「人と話をする時は、相手の目を見て話しなさい。」と言われた事が実生活にも出ていたのです。
友達の家やよそのお宅に上がったり、親族の家に上がったりした際「楽にしていいのよ。」「足崩して座って。」と言われ、ふと気づくと正座をしている時に「あっ」と我に返ることも。
更には賞状や卒業式の賞状を受け取る時、おじぎを35~40度の角度で、3秒間上半身を倒して起き上がって、賞状を左手から右手の順で受けとり、また、上記のおじぎをし終わった後で「あ、(この動き)剣道だ」と気付いたこともありました。
ある程度成長してからならともかく、小学生の時からしっかりした礼儀が身についていたのは剣道を経験していたことが大きかったと思います。
最速!雑巾がけダッシュ
小学生の時、廊下の掃除で雑巾がけをしている時、友達よりも早く雑巾がけが出来る自分に「あっ」と我に返り剣道のじぶんがいる。と笑ってしまう瞬間がありました。
稽古をする前には必ず道場の雑巾がけを行っていたので、当時はクラスの誰よりも早くできる自信がありました。
■稽古を通して得られたもの
剣道部に在籍していた中学生~高校生時代の思い出は、稽古を通して得られた経験と力についてです。
まず一点は剣道で得られた精神力です。夏の暑い日は厚い防具を身に纏い、冬の寒い日も素足で稽古に勤しみ猛練習を続けてきました。
そこで得られた忍耐力とどのような状況でも平常心で戦える力は、社会人となった今もわたしの精神力の糧となっています。
また対人競技であり相手と向かい合い戦うスポーツのため、相手に対する敬意や礼に対しても学ぶことができました。当時の顧問の先生は礼に対して大変厳しく指導をする先生で、良く怒られていたのを覚えています。
二つ目は、同じ部活で出会えたかけがえのない仲間たちです。
弱小だったわたしたちの中学校剣道部は大会でも万年一回戦負け、個人戦も勝ち上がる人間はいませんでした。どこかマイペースな風潮と、真面目に稽古していない仲間に対しても厳しく律することを誰もしない雰囲気だったのです。
しかしそれではいけないと奮起してくれたのが二年生になり新体制に代わったあとの部長でした。これまで一年間共に新入部員として稽古してきた彼は大会で少しでも勝ち良い思い出にしようと部をまとめてくれたのです。
他の部員も反発することなく共に真面目に練習し一年間を過ごしました。結果、三年生の最後の大会では団体戦で一勝をあげることができました。
一勝とはいえ、皆の団結と努力の末に掴んだ勝利はとても誇らしく思い出に残るもので、当時共に練習に励んだ仲間とは30代になった今でも毎年集まり酒を飲み交わす間柄です。
■「良かった!」と思える瞬間
個人差はあると思いますが、私の場合は様々な礼儀作法などを覚えた事が1番だと思います。始めたのが小学生3年の時ですから、この頃に礼儀作法も何もありませんからね。
しかし、剣道は礼に始まり礼に終わる。最初は毎回行くたびに何でこれを言わなければいけないのかなあ?と子供心に不思議に思っていました。
ようやくこの事が理解出来たのは中学に入学して剣道部に入部した後です。
体育館で練習していた時の友人も同じ中学校になったのですが、自分の腕前がどの程度なのかも知ることができたのも良かったと思います。
この相手なら勝てる、この相手には絶対に勝ち目はない、こういった洞察力を覚える事も出来ました。
プレッシャーにも強くなり、試験前など、大事な勝負時の前に緊張する事がなくなりました。
いい加減に勉強をしていたわけではありませんが、何とかなるだろうと気楽な気持ちになりました。これで本当に良いのかどうかは分かりませんが、私にとっては良かった事の一つです。
共に汗を流し一緒に稽古することによって出会いがあり恋に発展するケースはあるのでしょうか。私の周りもそうでしたが、剣道男子は気になる女性剣士に対して面を外した時の湯上がりのような艶っぽさに心を奪われるのです。これはおそらく防具類で顔が見えないからこそ、その人への思いが募りやすい心理状態になりやすいスポーツなのかもしれませんね。このようにどんなスポーツでも恋が生まれるケースはありますが、剣道においては意外にも恋に発展しやすいと言えなくもありません。
■剣道を辞めたい!と思ってしまったとき
最初のころは手の皮は剥けるし、足の皮は剥けるし、先輩方との実力がかけ離れていて本当に辛かったです。
私は中学生に入ってから剣道を始めたのですが、1年生と2年生では体つきから身長にいたるまで体格に差があり、たった一年とはいえ大きな壁となっていました。
体つきが違うので当然、打突の力は雲泥の差でかなり痛い思いをしました。防御や体さばきもままならないのですから必要以上に打ち込まれてしまいます。
このころは夏の稽古もまだ楽しいと思える時期ではなく「早く終わらないかな」、「いやだなぁ」とよく思っていました。
なんとなくやっていた剣道でしたのでこの後もっとも辛い時期がやってきます。それが冬稽古です。これが辛すぎました。寒さに加え痛みが半端なく、こんなに辛いなら辞めてやると正直毎日のように思っていました。
そんななか、転機が訪れたのは冬の地区合同稽古に参加した時でした。初めての試合形式の稽古で、自分の相手は自分と同じ年・同じ経験の選手と当たりそれは見事に負けました。それだけならまだしもその日の稽古試合はさんざんで負けに負けて、嫌になるぐらい負けました。
自分の負けん気に火が付いたのはその時からです。上級生に負けるならまだしも、同じくらいの経験の選手に負けたことがとにかく我慢できませんでした。その悔しさから、今までなんとなくやっていた剣道を真剣に取り組むようになっていきました。
不思議なもので、真剣に取り組むようになると覚えが格段に早くなっていきました。そして自分が上手くなっていくのを実感できるようになると、今まできつかったものが少しずつ楽しくなっていくのです。
二年生の夏にはかなりの実力が身に付き、部の部長にまで上がれました。みんなで稽古内容を考え先生に相談して教えてもらうようになり、稽古も充実していきます。自分たちで考えたメニューですからどんなにきつくてもやりこなせましたし、意外に楽しくこなせました。
もちろん先生の稽古もあるのですが、それ以外は自分たちで考えることによって稽古の意味がなんとなく解っていきました。剣道は自分との戦いということが少し解ってからは辞めたいと思うことがなくなったように思えます。
■最後に
大人になって剣道を辞めてしまった人、今でも続けている人、どちらにとっても子ども時代の剣道部での思い出というのは強く心に残っているようです。
辛いことも決して少なくはなかったにしろ、その時の経験が今に生きていてかけがえのない財産になっているというのはとても素晴らしいことだと思います。
日々の稽古がきつい、辞めたい、と思う気持ちも時には出てくるかも知れませんが、そんな時はここで読んだ内容を思い出してみてください。
のちのち良い経験だったと振り返ることができる日がいつか訪れるかも知れません。