審査当日とそれまでの稽古を振り返って|八段合格者の経歴と手記【上】平成30年11月29日合格者

インタビュー

平成30年11月29日、30日に、日本武道館で行なわれた剣道八段審査。見事合格を手にした剣士に、審査当日の立合について、そして積み重ねてきた稽古について、手記をお願いした。
(年齢は審査当日|本記事は29日の合格者分です)

審査当日とそれまでの稽古を振り返って|八段合格者の経歴と手記【下】平成30年11月30日合格者

2019.01.30

岩橋亮典(いわはし あきのり)

北海道・51歳

プロフィール
【生年】昭和42年10月
【出身地】北海道新十津川町生まれ
【始めた時期】小学4年生
【始めた場所】新十津川尚武館
【経歴】東海大学第四高校→東海大学
【現職】札幌刑務所

【薫陶を受けた師】
(新十津川尚武館)(故)田中弘明先生
(東海大学第四高校)古川和男範士、木村主計先生
(東海大学)(故)橋本明雄範士、網代忠宏範士、金木悟範士

【大会での戦歴】
全国矯正職員大会団体・個人出場

毎日の稽古で感じたことを書きとめ、次の稽古に活かした

今回、剣道八段審査7回目の挑戦で幸運にも合格させていただきました。審査に向けて特別な稽古をしてきたわけではありませんが、今までの審査を振り返り執筆させていただきます。私は、平成17年11月七段審査合格後、腰椎椎間板ヘルニアの手術、膝の怪我等で満足に稽古ができない日々が続き、八段審査を諦めかけていましたが、恩師からの手紙で奮起し、八段審査を意識するようになりました。

■毎日の稽古を心がける

平日は、ほぼ毎日職場の道場で稽古ができる恵まれた環境にあります。土曜日、日曜日は札幌中央体育館において剣道朝稽古、月に1回北海道剣道連盟月例稽古会などに参加させていただき、とくに八段の先生に稽古をお願いしました。先生方からご指導いただいたこと、稽古の中で私自身感じたことをノートに記載して、次の稽古に活かすように心がけました。

■審査当日

過去6回の審査では、「何を打とうか」「打ちたい」「打たれたくない」という迷いと焦りから集中力に欠け、審査が終わると反省しかありませんでした。今回の審査では、自分を信じること・集中することの2点を心がけました。一次合格後は、独り会場の外で好きな本を読んだり、日頃から応援、勇気づけてくれた友人からのメッセージを読み返すなどして二次に備えました。

二次審査でも一次審査同様、自分を信じること・集中することだけを考えて臨みました。結果、一次審査、二次審査の内容はほとんど覚えていないのが正直なところです。

今回合格できたのも、これまでご指導をいただいた先生方、同期生、剣友、そして家族の支えがあったからだと思っております。今後の剣道人生において感謝の気持ちを忘れることなく、日々精進していきたいと思います。

 

三條貞夫(さんじょう さだお)

山形・66歳

プロフィール
【生年】昭和27年3月
【出身地】山形県米沢市生まれ
【始めた時期】小学4年生
【始めた場所】米沢警察署道場(直養会)
【経歴】米沢興譲館高校→明海大学歯学部→奥羽大学歯学部→星総合病院
【現職】三條歯科医院院長

【薫陶を受けた師】
高﨑慶男先生、岩立三郎先生、遠藤勝男先生、矢作惠一郎先生、大倉公司先生はじめ、ご指導下さいましたすべての先生方

【大会での戦歴】
国民体育大会5回出場

「気合は大きく」「動じない」「打ち切って残心きれいに」をずっと念じていた

■八段審査当日を振り返っての感想

これまで審査日は初日にこだわり、11月29日(木)午前10時ごろ日本武道館に入りました。観覧席には知り合いの先生方が大勢来ておられるのですが、ご挨拶は失礼して審査会場のフロア隅に陣取り、今回の目標を心で念じながら出番を待っておりました。

一次審査、そして二次審査とも立合の内容はあまり覚えておらず、すべてを出し切ったという満足感しかありませんでしたが、結果は合格となり感無量です。

後日、撮っていただいた動画で立合を観ますと、掲げてきた目標が予想以上にできていたことに自分自身が驚き、これまでご指導してくださいました先生方、稽古仲間、協力してくれた皆さんにただただ感謝の気持ちしかありませんでした。

 

岩脇司(いわわき つかさ)

石川・51歳

プロフィール
【生年】昭和42年1月
【出身地】石川県小松市生まれ
【始めた時期】小学2年生
【始めた場所】小松少年剣正会
【経歴】県立小松高校→金沢大学→石川県公立学校教員(中学校)
【現職】小松市立南部中学校教頭

【薫陶を受けた師】
(故)牛島英二先生、(故)中村清先生、林義也先生、田上雅治先生、惠土孝吉先生、穴田龍太郎先生、枡谷敏雄先生、山下和廣先生、末平佑二先生、安江正紀先生、(故)西善延先生、(故)下村清先生

【大会での戦歴】
全日本学生選手権大会2回出場
全日本学生優勝大会3回出場
全日本東西対抗大会1回出場
全日本都道府県対抗優勝大会2回出場
全国教職員大会8回出場、個人3位1回
国民体育大会2回出場

5、6人での稽古でも小中学生との稽古でも、必ず課題を持って臨んだ

■当日を振り返って

今回は私にとって12回目の挑戦でした。これまで5回二次審査に進みましたが、合格することができませんでした。

5月に二次審査で不合格となってから、今回の審査までのスケジュールをしっかり立て、できる範囲での取り組みをしてきました。ところが今回は、審査日の約1カ月前から仕事や出張、大会審判などが続き、これまでと比べて稽古量は極端に少なくなっていました。そのため少し弱気になりかけたこともありましたが、できるだけの仕上げをして、あとは「ピンチはチャンスである」「今まで身に付けたことはなくならない」「今のコンディションでできることは思い切り相手に向かうことだけ」など、ポジティブに、シンプルに考えて当日を迎えるようにしました。

当日は、心に決めたとおり、相手のことを考えるのではなく、すべて自分がすること、できることに意識を集中しました。力んで気を高めるのではなく、リラックスして、できることをやりきるための肝を据えることだけを考えていました。立合では、余計なことは考えず、自分ができることを出し切るために、相手と気を合わせて、思い切って技を出しました。そして二次審査に進むことができましたが、これまでの二次では、「もう◯回目だから、今度こそこのチャンスを生かさないと」と、力みがあったように思います。しかし今回は「やることは同じ。もう一度、初めからのつもりで」と、意識が変化することはありませんでした。そのため、二次審査も落ち着いて、意識を自分をに向けてやるべきことをやりきることができたと思います。振り返ると、4人の方に対して同じ気持ちで臨めたのは、今回が初めてだったように思います。

■まとめ

以上、僭越ながら自分の体験を述べてきましたが、思い起こせばすべてが周りの方々の協力のおかげだとつくづく感じます。ご指導いただいた諸先生、稽古の相手をしてくれた剣友の皆さん、協力して下さった職場の皆さん。周囲の温かい気持ちに支えられて今日があると、あらためて感じた次第です。これから皆さんに恩返しができるよう、一層精進していく決意です。ありがとうございました。

 

工藤良仁(くどう よしひと)

京都・50歳

プロフィール
【生年】昭和43年6月
【出身地】大分県豊後大野市朝地町生まれ
【始めた時期】小学5年生
【始めた場所】和光館道場
【経歴】安岐高校→國學院大学→京都府警察
【現職】京都府警察 教養課術科指導室剣道教師

【薫陶を受けた師】
(故)吉良和光先生、
宇佐野元生先生、古手川秀明先生、平川信夫先生、
奥島快男先生をはじめ京都府警察の歴代師範の先生

【大会での戦歴】
国民体育大会4回出場、3位1回
全日本都道府県対抗優勝大会出場
全国警察大会出場
全国警察選手権大会出場

日頃から稽古=審査を意識し、当日も普段と変わらぬ気持ちで臨んだ

■八段審査当日を振り返って

私は、今回の東京の審査が2回目の受審でした。前回は5月に京都で受審しましたが、一次審査で不合格でした。前回の京都審査は10年ぶりに昇段審査を受審したわけですが、自分でも準備不足で気持ちの整理ができていなかったように思います。

■審査を終えて

今回の審査を自己評価してみますと、落ち着いて立合ができたことが良かったのではないかと思います。初太刀を意識しすぎて、打突の機会でないのに技を出したり、相手の打突に対応できずに慌ててしまって無駄打ちするなどのマイナス面が、あまりなかったのが良かったのではないでしょうか。

日頃から、稽古=審査を意識しておくことが大切です。

審査当日も普段と変わらぬ気持ちで臨んだことが合格した要因だと思います。

合格させていただいた今、初心に帰り、「剣道の理念」を念頭に置いて、日々精進して行く所存です。

 

平野亨(ひらの とおる)

熊本・57歳

プロフィール
【生年】昭和36年11月
【出身地】熊本県菊池市生まれ
【始めた時期】小学3年生
【始めた場所】河原小剣道クラブ
【経歴】熊本第一工業高校→熊本県警察
【現職】熊本県警察 本部警務部教養課 課長補佐兼師範

【薫陶を受けた師】
(故)本田啓介先生、(故)髙田素行先生、北村榮一郎先生、西嶋敏先生等から指導を受ける。
現在は熊本県剣道連盟泉勝寿会長以下、熊本県剣道連盟の師範、教師の諸先生方。

【大会での戦歴】
全日本選手権大会1回出場
国民体育大会3回出場、2位1回
全国警察大会1部優勝1回、2部優勝2回

迷っている自分を捨てることを心がけ、打ち切ることだけを考えた

このたびは、八段審査に合格させていただき身に余る栄誉と恐縮しております。まだまだ未熟な私でありますが、自分なりに今回の審査で感じたこと、また心がけたことなどについて述べさせていただきます。

■審査にあたって(心がけたこと)

まず今回の審査では、「迷っている自分を捨てる」ことに心がけました。

審査の1週間前に、熊本の教士八段・栗崎敬一先生から、「審査では、『打たれたくない』『打ちたい』という気持ちを捨てること。自分がこれまで稽古してきたことを信じて『自然体』で臨むように」と言われました。

これまでの審査では、打たれたくないことを意識しすぎてしまい、体が中途半端な動きになっていたように思います。

今回の審査では、いろいろ迷っている自分を捨てることに心がけ、「攻め」の動きの中で、体が自然に反応して技が出ることに集中し、打つときは、「打ち切ること」だけを考えました。

はたしてそれができたかどうかは分かりませんが、良い意味で、開き直って自然体に近い状態で審査に臨むことができたように思います。

■おわりに

私は、昇段審査にあたり、全国から多くの私よりはるかに年配の先生方が、重い剣道防具を担いで、審査会場である日本武道館に向かう姿(挑戦する姿)に感動を覚えました。

今回、3回目の挑戦で運良く昇段させていただきましたが、今までご指導いただいた先生方、先輩、多くの剣友の方々に感謝し、挑戦することの素晴らしさを忘れず、生涯剣道の実践者となれるよう、今後もさらに精進を重ね、剣道を通じて皆様に恩返しができればと思っています。

 

谷川幸二(たにがわ こうじ)

宮崎・53歳

プロフィール
【生年】昭和40年4月
【出身地】宮崎県延岡市生まれ
【始めた時期】小学1年生
【始めた場所】延岡修道館
【経歴】高千穂高校→東海大学→宮崎県警察
【現職】宮崎県警察職員 剣道師範

【薫陶を受けた師】
(故)甲斐富嘉範士八段、(故)吉本政美教士八段、(故)橋本明雄範士八段、網代忠宏範士八段、(故)甲斐清治範士八段

【大会での戦歴】
全日本選手権大会2回出場
全日本都道府県対抗優勝大会7回出場
国民体育大会12回出場

今まで積み重ねてきた自分のすべてを見ていただく気持ちで、覚悟を決め、立合に臨んだ

八段審査に挑戦を始めて、12回目(二次審査6回目)にして合格させていただきました。これも日頃よりご指導いただきました諸先生方、宮崎県剣道連盟、警察関係、先輩、剣友、少年剣道(白虎剣友会)の皆様、そして家族のお陰と深く感謝しております。また、八段という責任の重さに身の引き締まる思いです。

昇段審査に向け稽古に励まれている方々は、それぞれ確立された稽古法をお持ちと思いますが、出筆の機会を与えられましたので、私なりに受審前に取り組んだこと、心がけたことについて記述させていただきます。

■審査当日

普段どおり5時半に起床し、散歩を約1時間、しっかりと朝ご飯を摂り防具を担いで日本武道館に向かいました。

受付をする前に本会場において、松崎達義先生と約15分間の基本稽古を実施(切り返しと面打ちのみ)しました。不思議と体も軽く、気持ちも穏やかで今までになく落ち着いていました。

一次審査、二次審査ともに審査員の先生方に見ていただくという想いで臨みました。立合中は、お相手の先生に集中し、無駄打ち、余計なことをしないことのみ考えて無心で打ち込むことができたと思います。

日本剣道形は、九州管区警察学校教官時に清水新二教士八段に師事し、その後形の稽古を継続してきたお陰で、落ち着いて打つことができました。また、形のお相手が東海大学でともに学んだ岩橋亮典先生で、氣も充分に合い、迷いもなく、すがすがしい気持ちで打つことができました。

■最後に

今後は、今まで剣道の素晴らしさを教えていただいたすべての方々に感謝するとともに、生涯剣道を目標として、「剣道の理念」を踏まえた修業を重ね、本物の八段を目指して、仕事(警察業務)や生活(少年剣道、社会奉仕)において、少しでも社会に貢献で切るように努力していこうと思っています。