審査当日とそれまでの稽古を振り返って|八段合格者の経歴と手記【下】平成30年11月30日合格者

インタビュー

平成30年11月29日、30日に、日本武道館で行なわれた剣道八段審査。見事合格を手にした剣士に、審査当日の立合について、そして積み重ねてきた稽古について、手記をお願いした。
(年齢は審査当日|本記事は30日の合格者分です)

審査当日とそれまでの稽古を振り返って|八段合格者の経歴と手記【上】平成30年11月29日合格者

2019.01.24

 

名生伊智郎(みょう いちろう)

宮城・48歳

<strong>プロフィール</strong>
【生年】昭和44年12月
【出身地】宮城県登米市生まれ
【始めた時期】小学5年生
【始めた場所】佐沼武道館
【経歴】佐沼高校→東洋大学→宮城県警察
【現職】宮城県警察本部 教養課 術科指導官

【薫陶を受けた師】
(故)堀籠敬藏範士九段、(故)河島尉範士八段、(故)千葉仁範士八段、(故)氏家良人範士七段、遠藤勝男範士八段、曽根孝悦教士八段、齋藤浩二教士八段、白旗宏喜教士七段、(故)宮澤保行範士八段、佐藤勝信教士八段、五十嵐孝則教士八段、大泉貞房教士七段

【大会での戦歴】
全日本選手権大会1回出場
全日本都道府県対抗優勝大会2回出場
国民体育大会2回出場
東北・北海道対抗大会7回出場
全国警察大会10回出場

毎日6時10分から行なった朝稽古が、審査への自信につながった

■八段審査での大切な要素

(1)感謝の気持ちを忘れないこと

◯家族に対する感謝の気持ち……家族が理解をしてくれ、いろいろな面でバックアップしてくれていることに対し、感謝の気持ちを忘れないこと。

◯職場の上司、同僚、部下等に対する感謝の気持ち……審査は平日に行なわれ、休暇を取得しての受審となる。その間、職務を代行してくれている職場の皆さんに対して、感謝の気持ちを忘れずに審査に臨むことが大切である。

◯恩師や仲間に対する感謝の気持ち……今までお世話になった先生方や仲間に対する感謝の気持ちも忘れないことが大切である。自分1人だけでは何もできない。

(2)人を感動させる剣道をすること

真っ向勝負の強い気持ちで、打つべき機会に打ち切る剣道を実践することが大切である。

 

安良岡修(やすらおか おさむ)

栃木・54歳

プロフィール
【生年】昭和39年1月
【出身地】栃木県小山市生まれ
【始めた時期】小学5年生
【始めた場所】小山市少年剣友会
【経歴】小山高校→中京大学→公立中学校教諭
【現職】公立中学校教諭

【薫陶を受けた師】
(故)岩瀬鉾太郎先生、(故)伊澤光夫先生、(故)白石聡先生、(故)伊保清次先生、
白石正範先生、白石輝志通先生、佐山春夫先生、林邦夫先生、堀山健治先生

【大会での戦歴】
全日本学生選手権大会4回出場、ベスト8=2回
国民体育大会6回出場、4位1回
全日本東西対抗大会2回出場
全日本都道府県対抗優勝大会5回出場、3位1回
全日本道場対抗優勝大会23回出場、優勝8回

少ない稽古量の中、稽古の質を高める工夫をした

■審査当日を振り返って

46歳から八段審査に挑戦し、今回16回目の挑戦で八段を拝受しました。これまでに一次審査には7回合格し、今回が8回目の二次審査でした。

振り返れば、過去の二次審査では姿勢態度や有効打突ばかりを気にし過ぎていたように感じます。誰が見ても納得するような有効打突を打つために、気持ちばかりが先行し、体全体に余計な力が入っていたと思います。今回は、審査直前に自分の稽古がまったくできない上に体調も万全ではなかったことで、かえって気負わず、無理をせず、自分の実力を出し切ることに集中できたと思います。

今回の審査で、とくに意識した点は次の3点です。
(1)間合
(2)呼吸法
(3)打突の機会

 

大目智志(おおめ さとし)

千葉・52歳

プロフィール
【生年】昭和41年5月
【出身地】千葉県千葉市生まれ
【始めた時期】中学1年生
【始めた場所】千葉市立葛城中学校
【経歴】千葉明徳高校→国士舘大学→中学校教諭
【現職】旭市立第二中学校教頭

【薫陶を受けた師】
(故)大野操一郎先生、(故)本屋敷博先生、(故)鈴木和夫先生、矢野博志先生、太田昌孝先生、氏家道男先生、岩立三郎先生、太田忠徳先生、岩井啓能先生、関川忠誠先生、渡邉誠一郎先生、近藤正利先生、染谷恒治先生、小久保正先生、太田晴夫先生、住母家具夫先生、飯野利典先生

【大会での戦歴】
特になし

打ち込みと切り返し、基本打ち中心の稽古に切り替え、一本勝負を重視

2年前、初めての八段受審の年に中学校の教頭職に就くことになり、忙しさのあまりに稽古が十分できず、八段への挑戦をあきらめていました。

しかし、稽古に出向くたびに八段を目指す先生方の真剣な取り組みや熱意に刺激を受け、再び、挑戦が始まりました。

審査に向けて調整していたものの、昨年11月の審査前日、怪我により挑戦を断念。そして、怪我が回復し、稽古再開時に立てた目標は「怪我をしない体づくりから」でした。

まとめとして週に一度、岩立三郎先生、岩井啓能先生をはじめ、八段の先生方がいらっしゃる「木蓮会」において、先生方との稽古に臨み、さまざまアドバイスをいただいて「立合の感覚」を養いました。

 

近本 巧(ちかもと たくみ)

愛知・47歳

プロフィール
【生年】昭和45年12月
【出身地】岐阜県岐阜市生まれ
【始めた時期】小学4年生
【始めた場所】市橋スポーツ少年団
【経歴】市立岐阜商業高校→愛知学院大学→愛知県警察
【現職】警察官(中部管区警察学校剣道教官)

【薫陶を受けた師】
大嶽將文先生、神山勝郎先生

【大会での戦歴】
全日本選手権大会4回出場、優勝・3位各1回
全日本都道府県対抗優勝大会2位1回
全国警察選手権大会3位1回
国民体育大会優勝、2位各1回

春の審査で二次審査不合格となり、自分を検証した

このたび合格できたことは、これまでご指導していただいた諸先生方や先輩後輩、皆様のお陰だと心より感謝しております。 今回私みたいな若輩者が筆をとることに不安を感じながら、取り組んできたことを紹介させていただきます。

今年春の審査で不合格になり自分なりに「検証」「修正」を行ないました。 まずは不合格になったとき、一次と二次の映像を多くの先生方に観ていただき、何処が良くて何処が悪いのか教えていただき、それから自分の中で噛み砕きながらどのように修正していけば良いか自分なりに考えました。

もう一度基本に帰り「姿勢と構え」「間合」「攻め」「機会」等、沢山の課題について少しずつ鏡の前で確認していきました。

■姿勢と構え

自然な姿勢と構えになるように心掛け、どのような相手でも対応できるような姿勢と構えを、動きに無理のない所に意識をおいて取り組んだ。それには体勢として前過ぎず後ろ過ぎずの体重の配分を意識しながら打ち込んでいった。そして相手と対して相手の変化、相手との関わり合いの中で、自分にとって攻めやすく、守るのに都合の良い体勢を取ることに意識をおいて取り組んでいった。

■間合

間合とは相手との距離だが、相手によって間合に違いがあるので、なるべく遠く離れた所から打ち込んでいくことに意識を置いた。 触刃の間から交刃の間までに意識を置き、打ち急ぐことのないように心掛け、攻めや溜めに繋げていった。

最初にも述べましたが感謝の気持ちを忘れず、まだまだ課題が沢山ありますので、八段としての修行をしていきたいと思います。

 

中村隆信(なかむら たかのぶ)

愛知・51歳

プロフィール
【生年】昭和42年1月
【出身地】広島県尾道市瀬戸田町生まれ
【始めた時期】小学4年生
【始めた場所】瀬戸田橘剣道クラブ
【経歴】中京商業高校(現中京学院大附属中京高校)→中京大学→愛知県警察
【現職】愛知県警察学校主任教官

【薫陶を受けた師】
辻信祐先生、福永正信先生、
(故)近藤利雄先生、(故)伊保清次先生、
林邦夫先生、堀山健治先生
大嶽將文先生はじめ愛知県警察歴代師範の先生方

【大会での戦歴】
全日本選手権大会2回出場
全日本都道府県対抗優勝大会2回出場、3位1回
国民体育大会6回出場、2位2回
全国警察大会(団体・個人)出場

厳しい言葉をもらって自身の考え方や行動が変わり、強い信念をもって臨んだ

今回で13回目の挑戦でした。いつもと変わらず「合格するかな」「どうやろうかな」など不安な心理状態でしたが、今までやってきたことを整理・準備して立合に臨みました。立合では、気を集中させ、「やめ」の声がかかるまで攻めの気持ちで懸かりました。

46歳から受審すること6年、審査に向けて可能な範囲で各稽古会、強化練習、講習会等に参加して稽古をし、先生方からご指導をいただきましたが、「準備したつもり」とどこか安易な気持ちで構えていたところがあり、「絶対に自分から勝ち取りに行く!」という強い信念に欠けていたように思います。

そんな私に対し、先生方から「先生にお願いしますという気持ちが足りない」「自分から求めて稽古をしていない」と叱咤激励をいただいたことが、自身の考えや行動を変えるきっかけとなり、合格につながったのだと思います。

おわりに、このたび私の長年の目標であった八段審査の合格は、今までご指導いただきました多くの先生方や剣友の皆様、そして何より家族の理解と協力のおかげと心より感謝申し上げます。これからも生涯修行を肝に銘じ努力精進していきたいと思います。

 

𠮷積弘次(よしづみ ひろつぐ)

大阪・65歳

プロフィール
【生年】昭和28年6月
【出身地】大阪府四條畷市生まれ
【始めた時期】小学6年生
【始めた場所】四條畷警察の剣道教室
【経歴】大阪府立城東工業高校→国士舘大学→大阪府中学校教員
【現職】四條畷市教育委員会教育センター勤務

【薫陶を受けた師】
(故)山下吉太郎先生、(故)佐藤純一先生、(故)大野操一郎先生、
矢野博志先生、島野大洋先生、島野泰山先生

【大会での戦歴】
なし

病気を機に挑戦を決意。懸かる稽古を心がけて臨んだ

■審査当日を振り返っての感想

審査で大切なことは、如何に平常心で立合ができるかということです。今までは日帰りで受審していましたが、時間にも心にも余裕を持って審査に臨めるよう今回は近くのホテルで前泊しました。前日も武道館まで歩きましたが、当日は緊張をほぐすため朝30分ほど散歩しました。午後からの審査でしたが、午前の部開始前には武道館に到着しました。まず二階から会場全体を眺め、一階に下り、高揚した館内の空気の中で、床の感触を素足で感じ、良い立合のイメージを膨らませました。

審査が近づくと腹式呼吸(数息観)を行ない平常心を心がけ、立合に向かうときは自分自身に「自信を持て」と言い聞かせました。

八段審査6回目の挑戦で初めて一次審査・二次審査(3回目)とも驚くほど落ち着いた状態で立合ができたように思います。一次審査の発表があり、合格の喜びと同時に二次審査に臨む新たな緊張感に襲われましたが、審査は年齢的に後の方なので、軽く素振りや黙想をしているうちに不思議と落ち着くことができました。二次審査1人目は少し無駄打ちがありましたが、肚の据わった立合ができました。2人目も肚が据わり、無駄打ちなく、先を取り打ち切った打突ができたように思います。

 

上野篤良(うえの あつよし)

兵庫・54歳

プロフィール
【生年】昭和39年4月
【出身地】鹿児島県薩摩川内市生まれ
【始めた時期】小学4年生
【経歴】鹿児島商業高校→兵庫県警察
【現職】兵庫県警察 警察官

【薫陶を受けた師】
鈴木康?範士、川本三千弘範士、二子石貴資範士、佐藤桂生範士

【大会での戦歴】
全日本選手権大会1回出場
全日本都道府県対抗優勝大会5回出場、3位1回
国民体育大会2回出場
全国警察大会出場

攻めて・溜めて・崩して打つ、を意識した稽古を心がけた

■審査当日について

良い構えをして良い機会をとらえて打突しようと思わずに、相手だけに集中して攻め合いをしていこうという気持ちで臨みました。

この他の合格者 上野正明(神奈川・57歳)