玉竜旗2校目の遠来組覇者
20世紀最後の玉竜旗高校剣道大会男子の部を制したのは、伏兵中の伏兵・倉敷高校(岡山)だった。
倉敷は過去にインターハイ団体に出場したのは一度だけ、この年も中国大会を制しながらインターハイは県予選で敗退している。玉竜旗で過去最高の戦績はベスト32というチームだった。
■九州勢の牙城を崩した伏兵
それまで九州勢以外で玉竜旗を制したのは大阪のPL学園の3回だけで、以後インターハイを制した各校をはじめ多くの強豪が頂点を目指しつつ跳ね返されていた。
倉敷の優勝を予想した者は、本人たちを含めて皆無だったのではないだろうか。
立役者となったのは、大将の尾池智行である。
5回戦の仙台育英(宮城)との対戦では相手の次鋒から大将まで4人を抜いて逆転、4回戦の熊本西戦でも3人抜きなど、出番がなかったのは1回戦と決勝だけで、重要な場面ばかりに登場し、計12勝をあげた。
例年と同じように、上位に進むにつれ九州以外のチームは姿を消した。
この年のインターハイでは関東勢が上位を占めるが、優勝した高輪(東京)、2位の桐蔭学園(神奈川)なども姿を消し、九州勢以外でベスト16に残ったのは倉敷と、インターハイ3位の高岡工芸(富山)のみ。ベスト8には倉敷だけが残った。
■剣道史に残る快挙を打ち立てた倉敷
倉敷はさらに、準々決勝で福岡工大附、準決勝で大分を破る。
いずれも最後は大将同士の戦いを尾池が制した。そして、悲願の初優勝を狙う地元福岡第一との決勝では、意外なヒーローが生まれた。
「お前なら勝てる」
尾池は、相手の大将と戦うべく立ち上がった副将の三澤綾生にこう声をかけて送り出した。
対する福岡第一の大将磯貝和亮は、6回戦で八代東(熊本)、準々決勝では龍谷(佐賀)に対しそれぞれ3人抜き、準決勝でも福大大濠(福岡)に2人抜きと、逆転につぐ逆転の立役者となった大会屈指の大将。一方、三澤はこの大会でまだ1勝もあげていない。
だが、尾池の言葉を受けた三澤は試合開始から攻勢に立ち、メンを攻めてのコテで一本を先取。
磯貝が地力を見せ出ゴテを返すも、延長に入って三澤は中途半端な間合からひきゴテを奪う。この瞬間、倉敷の優勝が決定した。
ノーシードながらシード校5チームを破っての快進撃で、倉敷の名は全国に知られ、大会史に刻まれた。