剣道防具の違いと作り手を知っておこう
剣道防具は一見同じに見えても、素材、刺し方、素材によって違いがあります。
一体何が違うの?と思われる方のために、解説していきたいと思います。
■手刺と機械の違い
剣道の防具は「手刺防具」と「機械刺防具」の2種類にわけることができます。
手刺防具は、職人が針を使って1本1本手作業で糸を縫って作った防具で、機械刺防具はミシンを使用して作られた防具です。
手刺防具
手刺防具は刺し幅(縫い目の間隔の大きさ)がミシン刺しよりも細かくなります。
刺し幅が小さいと中身の『布団』と呼ばれる衝撃緩衝材が徐々に薄くなり、耐久性が高い防具になります。
刺し目が細かいので詰め物がたくさん入り、衝撃にも強く保護性が高くなります。また、細かいぶん見栄えが美しいのも手刺し防具の利点です。
しかし、手作業で仕上げているため価格が高くなり、完成までの時間も長くなるというデメリットがあります。
ミシン刺防具
刺し幅が大きくなるので、体になじみやすく、動きやすいというメリットがあります。また、手刺しよりも安価に購入することができます。
しかし、差し幅が大きいと防具がゆるみやすく、手刺に比べ消耗が激しいというデメリットがあります。
コスト面を重視する人や初心者には、馴染みやすいミシン刺防具がおススメです。
費用に余裕がある場合や昇段審査が控えている人には、見た目が美しく威風堂々とした手刺防具おススメです。
■刺し幅による違いとは
刺し幅が小さい防具は芯材と呼ばれる防具の中の衝撃吸収材が圧縮されて薄くなり、衝撃吸収性が低下します。
しかし、そのぶん芯材が圧縮されるため防具の表面が滑らかになり、見た目が美しい防具になります。
逆に刺し幅が大きいと芯材に厚みが出て柔らかくなり、衝撃吸収性が大きくなりますが、刺し幅が小さい物に比べて厚みが出て見栄えが悪くなります。
理由は下の項目でも述べますが、一般的には刺し幅の短いものほど高価になってきます。
ちなみに縫い目の間隔は手刺のものだと分・厘といった尺貫法、ミシン刺しはミリメートルで表記されることが多いようです。(※ 一分は約3.03mm)
刺し幅は小さいもので3mm、大きいものでは7mmなどがあります。
小学生や、練習用として使う防具が欲しい人は衝撃の吸収性が高い防具が求められるため刺し幅の広い5mm~7mmの防具を選ぶとよいでしょう。
試合や昇段審査に使う予定がある人は刺し幅が短く、見栄えの良い3mm~5mmのものを選ぶといいでしょう。
実際に防具の質感を感じるためにもぜひお近くの実店舗に行って刺し幅の違う防具を比べてみてください。
■素材の違い
防具を選ぶ上で欠かせない要素として、防具に使われる素材があります。
大きく分けると、動物の皮革を使用した『天然革』、化学繊維や合成樹脂等の人工的な素材を使用した『人工革』の二種類が存在しますが、この二つの革の種類の特徴と違いを紹介します。
高価で見栄えの良い天然革
天然革はその多くが鹿革を使用しており、比較的高価なものが多いのが特徴です。
人工革に比べて見栄えが良いとされていて、一般の人から見た場合の差はわかりにくいですが、剣道をしている人からすれば、天然革を使用した防具を身に着けていることはひとつのステータスとされています。
ただ天然革は汗にやや弱く、色の変化が起きたり臭いが沈着しやすいため、細かいメンテナンスが必須です。
天然革は上記の通り高価なため、高校生以上~社会人、また大きな大会や昇段審査用として購入される方が多いようです。
安価で扱いやすい人工革
防具に用いられる人工皮革は一般的に「クラリーノ」とも呼ばれます。
(※「クラリーノ」は株式会社クラレで開発・販売された際の商品名ですが、現在では剣道具に使われる人工革全般を指す呼称として用いられています)
人工革の防具は低価格のものが多く、購入しやすいのが最大の利点です。天然革に比べて耐久性があるため、稽古による消耗が大きい学生の部活動などに向いています。
天然革と人工革の違いについてイメージいただけたでしょうか?
高価で見栄えの良い天然革は試合・昇段審査向き、安価で扱いやすい人工革は稽古向きとそれぞれにメリットが存在します。
自分の使い道に合った素材の防具を選ぶのが一番ですが、よくわからないという場合は剣道具のお店に相談してみるのも良いと思います。
■剣道具を手がける職人の存在
安価な防具をはじめ一般的な防具はミシンで作られていますが、高価なものになると熟練の職人が一針一針縫いこんだ手刺しの防具もあります。
有名な職人が作った手刺しの防具は価格が100万円を超えることもあります。その佇まいや値段から、伝統工芸品や芸術作品の域に達しています。
しかしそんな一部の高級品を除き、国内で流通している防具の多くは比較的安価な海外製です。そういった安価な防具の普及に押され、現在剣道具の職人は数が減っています。
剣道具師に弟子入りするには?
近年は技術継承の機会が失われつつある伝統産業を保存するため、若い人が技術を引き継ごうとする機運が高まりつつあります。
剣道具もまた例外ではなく、職人さんの数が年々減少しているため、職人の引退により製造技術が再現できず、世間への流通が途絶えてしまうというような防具も出てきています。
もし将来的に剣道具職人を目指したいという気持ちをお持ちの場合、まずは現在活動されている剣道具職人に弟子入りしてみるのが良いでしょう。
弟子になるための具体的な方法として「剣道具職人会」という組織があるため、そちらに問い合わせてみるとよいと思います。
また会の専用サイトにはそこに在籍している職人さんたちの名簿が閲覧できる仕組みになっていますので、そこで情報を確認し自分が良いと思った職人さんへアプローチするのが近道です。
特に希望の職人さんがいない場合は自宅から近い通いやすい職人さんにした方が良いでしょう。
しかし、どの職人さんも弟子にしてくれるとは限りません。
なぜかというと、現在職人さんの制作する剣道防具はハンドメイドであるがゆえに製造コストが高く、品質が良くても十分な利益が出しにくいため、安定した雇用状況を確保しづらいというのが現実です。
また、上記のように剣道具職人を取り巻く状況は決して楽観視できるものではなく、弟子になれたとしても苦労はつきものであると言わざるを得ません。
それでも弟子入りしたいという場合は上記方法で職人さんへ直接アポイントを取り話を聞いてみるという方法が最も現実的でしょう。
剣道具職人が○○を作った?
そんな剣道具職人にまつわる意外な話もあります。ある物を日本で初めて作ったのも彼らなのです。それは野球で使われるキャッチャーマスクです。
19世紀末頃に日本に伝えられた野球ですが、当時のキャッチャーはマスクをしていなかったのです。
日本男子たる者、スポーツで安全の為にマスクを被るなんて恥ずかしいという考え方が主流だったためです。
ですが、野球が普及するにつれボールが顔面に当たる危険性が認識されるようになると、国産のマスクが開発されるようになります。
そこで、アメリカの雑誌を参考にした際、最も似ている素材を元に作成されました。
それが剣道の面に使用される「面金」という、顔を守る金具だったのです。現在も当時のマスクが東京ドームの野球博物館に収められています。
■最後に
剣道は防具なくして行うことはできません。
そのため、剣道具職人という存在は剣道界を支える重要な仕事なのですが、上述の通りその数は年々減りつつあります。
剣道はスポーツであると同時に日本の伝統武道を体現する競技の一つでもあるため、道具というハードの面で伝統が失われていくことは少なからず危機的な状況と言えなくはありません。
近年は海外の剣道家たちが日本製の高品質な手作り剣道具にステータス製を感じ、日本旅行の際に購入していくというケースも増えつつあります。
そういった手作り品のよさが再評価され、技術が途絶えないようになって欲しいと切に願います。