剣道防具の基礎を知っておこう
剣道防具は、面・胴・甲手・垂によって構成されています。そのひとつひとつに意味があり、構造やデザインもあります。その基礎について紹介していきたいと思います。
■面
剣道を象徴する防具のひとつである面。相手の打突から頭と喉を守るために用いられます。
大きく分けると面金、内輪、面垂れ、突き垂れの4点から構成されています。
面金
面の前面を覆う金属の保護具です。
顔を保護しつつ視界を確保するため格子状になっています。
江戸時代の頃は竹、その後は鉄が使われていましたが、軽量化が進み徐々にジュラルミンやチタンなどの合金に変わってきました。
物見
面金の隙間のうち、目の位置にくる部分をこう呼びます。
他の隙間よりも少しだけ広くなっており、視界を妨げないようになっています。
自分にあった面を選ぶ際にはこの物見の位置も重要になってきます。
内輪
顔の輪郭部分を守る部分です。
内輪は顔をはめ込む場所でもあるので、ちょうどよいサイズを選び、ずれないように装着しなければいけません。
面垂
内輪から肩に向かって垂れている部分です。
稽古で打ち合いをしていると狙いが外れて面垂れを打たれることが多々あるので、肩を十分に保護できる長さの面垂れを用意する必要があります。
突垂
相手の突きから喉を守る部位です。素材は牛皮などが用いられます。
面は、長沼四郎左衛門国郷(ながぬましろうさえもんくにさと)という人が初めて作ったと言われています。
面や甲手を含めた防具は、打ち合い稽古をしても互いに傷を負わないようにと、長沼の父、山田光徳路と共に開発が続けられていました。
そして、最終的に完成形を作ったのが長沼でした。
眼鏡はつけていてもいい?
眼鏡をしたままで面をかぶることは認められています。
他のスポーツに比べると面金に守られているぶんレンズが割れるといった可能性は低くなりますが、それでも破損には気をつける必要があります。
リスクを避けるためにはコンタクトレンズを使用する、あるいは剣道専用の眼鏡というものがあるため、そちらを利用する方法もあります。
面サイズの測り方
剣道具のサイズを測るときは、いくつか注意する点があります。
まずは柔らかい裁縫用のメジャーを使用することです。
曲線部分が多いため、金属メジャーを使用する人もいますが、金属では正確に測ることはできません。
そして測定時は必ず2人1組で、周りの人から測ってもらいましょう。
自分では正しく測定できませんので、2人1組で測り周りの人にサポートをしてもらうことが大切です。
ここでの注意点は、メジャーが皮膚に食い込まないようにすることです。
また緩すぎにも注意してください。タオルを巻いて身に付けることも考慮し、実際にタオルを巻いてから測ると良いでしょう。
頭のヨコ周りのサイズ
こちらは額とこめかみを通るラインですので、そう難しいことはありません。
ですが、タオルの巻き方次第では当たる部分が気になることもあります。そのため、そのような際には少しゆったりとさせることも一つの方法となります。
■胴
剣道の防具で、胴体部分を保護するために用いられるのが「胴」です。
腹部から胸までを守る構造をしており、飾り糸や胴台の色など、デザイン性も豊富です。
刺繍や色が用いられるため、個性を一番出しやすい防具といえます。
胴胸
胴胸は硬い芯材を牛革で覆った構造をしています。
これにより、強い打撃を吸収することが可能になります。また、胴胸の飾りは刺繍が施され、かっこいいデザインの物も多いです。
胸飾り
剣道の胸には色々な模様が描かれています。あの模様のことを『胸飾り』といいます。
飾りの刺繍はいくつか種類があり、それぞれに意味が込められているのです。
乳革
胴紐を通すためのわっかです。
雲型は、その名の通り、雲の形を模した刺繍です。
飾りとしてだけでなく、剣先が胸にあたったときにそのまま首にずれて流れてしまうのを防ぐ役割があります。
以前は、上段の構えの選手への胸突きが有効打として認められていたので、上段の選手が雲形の防具をよく身に着けていました。
とはいえ、それ以外の刺繍も多数ありますので、一度見てみて気に入ったものを選ぶのもよいと思います。
インターネットのショッピングサイトでは、胸飾りの見本を見ることができて、それを元に注文できるサイトもあります。
胴台
胴台は竹刀による打撃から腹部を保護する役割を持っており、主に化学樹脂(プラスチック・ファイバーなど)や竹で作られます。
樹脂製は安価で、初心者、中級者用に使われています。
竹製の胴は表面に牛革を張り付け、漆をぬって仕上げるのが一般的です。それ以外にも、鮫革を張ったものなどもあり、仕上げは多種多様です。
胴台は一般的には黒色で塗られますが、それ以外の色も使用可能です。
胴は剣道の道具で一番個性を出しやすい防具です。派手な色を使う人もいれば、落ち着いた色で整える人もいます。また、チームで統一して統一感を持たせる学校もあります。
プラスチック製の胴は、ナイロン樹脂などで作られています。
強度は高く、価格も低めですので多く普及しています。
ファイバー胴は高純度のパルプ繊維原紙を張り合わせ、樹脂で固めたものです。プラスチック製よりも軽く、動きやすいです。
伝統的な竹製は牛の革に竹を張り合わせ、その上に漆を塗り重ねて仕上げるのが一般的です。
高級感があり見た目的にも美しいです。
初心者向けの胴は?
比較的安めなプラスチック製か、軽くて動きやすいファイバー製の胴を選ぶといいでしょう。
どちらも色は好きなものを選べますが、スタンダードなのはやはり黒です。また、素材や色以上に重要なのがサイズです。
体のサイズに合わない防具を着けていると動きが制限されてしまいますので、まずは自分の体にフィットするものを選ぶようにしましょう。
■甲手
甲手は手から腕までを保護する防具です。
衝撃に耐えて手を守りつつ、柔軟に竹刀を握れるようにするため、緻密なつくりをしています。
甲手は主に、甲手頭、甲手筒によって構成されています。
甲手頭
甲手頭は甲手の拳を保護する部分です。材料は鹿革または合成革が用いられます。
甲手頭は手の指を動かすのを邪魔しないように、飾りの糸をを何段かに入れることで完全に固まって動かないわけではなく、柔軟に手を広げることができます。
甲手部の先端は、親指だけが独立した形になっています。
手の内
甲手の握る部分には、手の内という柔らかい革がついています。
内革は高級なものでは鹿革や牛革、安価なものは人口皮革が使用されています。
内革はきめが細かく、竹刀をしっかり握れるようにつくられていますが、長期間使っていると竹刀との摩擦で擦れが目立つようになります。
最も酷使する部位となるため、剣道具の中でも特に傷みやすい部分です。
甲手筒
甲手筒は手首から腕の中部あたりまでを守ります。
甲手の有効打は甲手筒に打つと得られます。甲手は手の汗で中が蒸れやすく、臭いがつきやすい防具です。
そのため使用後はしっかりと乾燥させることが大切です。
■垂
垂は腰や急所に竹刀が当たるのを防ぐ役割を持っています。
よく胴を打ちに行くと狙いが外れて腰に当たるということが起きるので、垂があると衝撃がかなり吸収され、安全に稽古ができます。
大垂・小垂
垂には、「大垂」と呼ばれる大きな垂れが3枚、「小垂」という小さな垂れが2枚付いた構造をしています。
腰回りで動きやすさを重視して、布地で作られています。
垂ネーム(垂ゼッケン)
垂の中央にある大垂には各個人の名前や所属団体を示す名札がはめられます。
名札は紺または白文字と決められており、団体名は上部に横書き、競技者名はその下に縦書きで書くように規定されています。
垂の装飾
大垂には雲形などの飾りや装飾が施されているものもあります。
垂の装飾は高級感が増すだけでなく、垂の強度を上げ、形が崩れるのも防いでくれます。
また、垂はほかの防具と同様に手刺しタイプとミシンタイプがあります。
手刺しタイプはミシンタイプより作りがしっかりとしており、見栄えが美しくなります。
垂の選び方
垂のサイズは身長、体重、ウエストを参考に決定します。
垂は腰回りにつけるため、サイズが合わなければ動きが鈍くなってしまいます。
可能であれば、防具屋に行って体に合うものを選ぶといいでしょう。
■ネーム刺繍を入れよう
ネームは、防具、袋類(袋にはネーム入れがついていることが多いです)、道着に刺繍で入れます。
名前は基本ですが、昇段のお祝いの場合も刺繍して送ったりもします。
基本的な形状が同じなので、自分の道具に名前が入っているとわかりやすいですし、思い入れのある刺繍は稽古にも熱がはいりますよね。
刺繍はどこに入れる?
刺繍を入れる位置で多いのは甲手、面垂れの裏、垂の裏など。道着の場合は、胸、肩、前合わせ。袴は、右尻、腰板あたりに入れられることが多いです。
刺繍のサイズの例として道衣はおおよそ縦3~4センチ角、防具ならば1~2センチ角などの小さいサイズがよく使われています。
何色あるのか
刺繍の色は数の取り揃えは多いので、おおよそ好きな色を選べると思います。
金、赤、白など特に規定はありません。字の書体も自由です。
費用
ネームは文字数にもよりますがおおよそ一文字で数百円ほどです。
刺繍はインターネットで注文や専門店して購入する際にしてもらうことができます。
■最後に
防具といっても各部位にわかれていてそれぞれに役割があります。
また種類も豊富なので最初は迷ってしまうかもしれません。
先生や先輩に聞くのもひとつですが、専門店でも経験や年齢に合わせたものを提案してくれたりもします。思い切って質問してみるのもよいでしょう。