連覇を果たした西村英久、2年連続2位の内村良一が振り返る全日本選手権|第66回全日本選手権インタビュー集(1)

試合リポート
取材・構成=鈴木智也、岩元綾乃

11月3日に行なわれた第66回全日本剣道選手権大会。決勝は昨年と同じ西村英久(熊本)と内村良一(東京)による九州学院高校の先輩後輩の対戦となり、二本勝ちを果たした西村が連覇、かつ3回目となる優勝を達成した。優勝した西村と2年連続2位の内村が、当日試合後のインタビューで語ったことは────。

「もっと苦しめ」という恩師の言葉で、楽しく試合ができた
優勝・西村英久(熊本・熊本県警・29歳)

昨年に続く連覇、3回目の優勝を達成した。優勝3回は宮崎正裕氏の6回に次ぐもので、千葉仁氏、西川清紀氏、内村良一に並ぶ記録。2連覇は宮崎氏(2回)、髙鍋進氏に続いて史上3人目の記録になった。

──優勝の感想は?

苦しい1年だったので、最後の試合がこういう結果で終わったのは嬉しいなと思います。本当にいろいろな人に支えられているんだなということを実感させられた1年だったので、そういう部分ではこうやって優勝できて、ちょっと感動してしまうというか、少しは恩返しができたかなって思いました。

──苦しさというのはどういう点ですか?

ずっと試合が続いたということとと、世界大会で勝ちたいという気持ちがあったのに、個人戦は勝てず、団体戦も足引っ張ってしまって、日本代表としてみんなで一本をつないで団体戦に勝とうというところで私が迷惑をかけてしまったこと。そこからどんどん苦しくなりましたし、昨年の優勝者としての次の1年の過ごし方というのをなかなか考えられなかった部分でした。それが最後のこの試合の前にできたところがよかったのかと思います。

──世界大会からこの大会まで、どうやって気持ちを立て直したのでしょうか?

正直な話、プレッシャーに押しつぶされそうになったんですけど、九州学院の米田(敏郎)先生に、今週の火曜日ぐらいに電話したら、米田先生から「もっとプレッシャーを感じろ」「もっと苦しめ」と言われて、それで私の中では苦しさというのが消えたんです。ああ、プレッシャーから逃げているから押しつぶされそうになっているんだなと感じて、そこからプレッシャーを自分にもっともっと課してやれたことで、この試合ではすごく楽に、楽しくできたんじゃないかと思います。私の気持ちを汲んでそういうことを言ってくれる米田先生がいるというのは本当にありがたいなと思います。

──終わって米田先生に電話をされていたと思うんですが、なんておっしゃっていましたか?

おめでとうって。試合(決勝)前も、実は米田先生に電話して、そうしたら「一つ乗り越えたんだから、自分を信じて行ってこい」って言われて、ちょっと泣きそうになったんですね、試合前から。大丈夫かなって思いながら行ったんですけど、こういう結果になって、さきほど電話したらすごい喜ばれていたんで……ありがたいですね。

──3回目の優勝で、連覇。連覇は史上3人目、歴史に残りますね。

ありがたいですね。でもあんまりそういう感覚というのは今はないです。連覇を求めたらダメだと思って前回臨んで負けたので、今回は連覇というのを意識してこの1年間やってきたので、だからこそプレッシャーというものをすごく感じたんだと思うんですね。そのプレッシャーとの向き合い方、過ごし方、接し方というのがわからなかったので、そこは九州学院で連覇を何度もしている米田先生に。「苦しいというのはそれだけお前が連覇を見とるという証拠ぞ」とも言われたので、ああそうだなと思って、じゃあもっともっとオレは苦しまなければいけないなと。やっぱり逃げていたんでしょうね。そういう意味ではいい言葉を言っていただいたなと思います。

──同じ日本代表選手との戦いはどんな気持ちで臨みましたか?

勝ちたいとは思いましたけれど、いつも言うように無心でやることが、私の剣道を出すためには一番かなと思って、今日も無心で何も考えず、体が動くように、動くままにやれたのがよかったのかなと思います。

──準々決勝からは10分という長い試合時間ですが、その対策は?

試合をやっていて、試合時間が長くなればなるほど苦しいなと思うこともあるんですけれども、日々プレッシャーと向き合っているからこそ、試合のときはまだまだ行けるっていう違う自分が出てくるのかなと思っているんです。そういう部分がよかったかなと思います。

──決勝の相手、内村選手については?

本当にすごいなっていう思いしかないですね。あの年齢でああやって勝ち上がってくる、一本取られたかと思ったらすぐに取り返す。ああいうところは生活とか人間性というのがすごく出るんだろうなというのを本当に感じさせられます。尊敬のできる先輩だなと思います。

──その内村選手に去年に続いて勝ちました。

本当にこれはたまたまです。九学の先輩であるというのが私の中では大きいと思うんです。本当に胸を借りて、行こうって思えるので、それがいいのかなと思います。

──決勝が早い時間で決着したのはそういう気持ちがあったからでしょうか?

そうですね。たぶんそういうところからきていると思いますし、去年の優勝というプレッシャーを味方にして試合のときに楽しめたのが、ああいう思い切りにつながったと思いますね。勝ち負けっていうのが私は決勝になるとなくなるんですよね。勝ちたいという気持ちよりも、思い切って自分の剣道をするっていうふうに気持ちを持っていったので、相手が内村先輩だったし、内村先輩に胸を借りるつもりで臨もうと思った結果がああいうふうになったのかなと思うんです。

──世界大会で悔しい負け方をして、そのような負け方をしないために改善したところは。

世界大会で負けてから、いろいろ技術面のどこが悪かったかというのは自分で反省して研究しましたが、結局技術面じゃないなっていうところに行き着くんですね。技術ではなくてメンタルということになったときに、じゃあどういうふうに試合に臨んでたのか、試合のときの自分の気持ちはどういうふうになっていたのかというのを自分の中で分析して、もっともっと冷静にしなきゃいけないなとか、そういう部分を反省できたところがよかったのかと思います。

──(世界大会の後に行なわれた)警察選手権では優勝しました。

警察選手権は全日本選手権があるので、負けてもいいやっていう気持ちで臨んだんです。世界大会が終わってからだったので、やりたくなくなったというか、どうやってやろうかなとか、どうやったら頑張れるかなとかっていう気持ちがあったので、その中でああいう結果が出たことは嬉しかったですけど、全日本とはちょっと気持ちの持ち方が違いました。この全日本は今年の最後の試合なので、自分の剣道を最大限に出すためにはどういうふうな気持ちで持っていくかということを考え、それができたので結果がついてきたかなと思っています。

──去年は、それまで守りが主だったのを攻めを主にして結果が出たと話していましたが、今年はそのあたりはどういう心構えをしましたか。

去年までは下がる剣道、間合いを切ったりとか下がる剣道をしていたんですけど、去年優勝してからこの1年間は、下がらないで、全部前でつぶす、前に行く剣道をやろうと思って臨んできたので、それがこういう形で結果として出てくれたのかなと思っています。

──3年後の世界選手権にむけて日本の第一人者としてまた突っ走っていかなければいけないですね。

そうですね。再来週からまたジャパン合宿があるんですけれど、正直な話一回休みたいというか、1回おいてまた頑張るというのがいいのかと思うんですが、走り出してしまわなければいけないので。今度はキャプテンをさせてもらうのですが、みんなを引っ張るというのはおこがましいので、私がやっているのを見てもらうという感じの方が私らしいのかなと思っています。

準決勝では、ともに世界選手権を戦った安藤翔(北海道)から、コテ二本を奪った(写真は一本目)

後輩たちに気持ちで負けないようにとは思っています
2位・内村良一(東京・警視庁・38歳)

38歳にして昨年に続く2位入賞を果たした。3度の優勝を果たしているが、これで2位が5回目となり最多記録を更新した(2番目の記録は8名が2回)。両者を合わせた決勝進出は8回目で、これも宮崎正裕氏に並ぶ最多タイ記録となった。

──12回目の挑戦でふたたび頂点まであと一歩のところまできました。決勝戦を振り返っていただけますか?

やはり西村選手は強かったですね。胸を借りるつもりで臨んだんですが、力及ばずで。また課題が見つかりました。

──決勝戦は昨年と同じ西村選手が相手でしたが、何か作戦のようなものを立てて臨まれたのでしょうか?

自分から先をかけてとは思っていたのですが、ダメでした。

──昨年の敗戦は内村選手にとってどのような経験でしたか?

一回一回の大会、一試合一試合が自分にとって反省材料になりますし、自分にとって課題を見つける大会でした。それを踏まえて「先をかける」ことを意識したのですが、また、稽古のし直しだと思います。

──竹下選手には一本取られてからの逆転勝ちでしたが(準決勝)、それも先をかける気持ちが大きかった?

そうですね。後輩たちに気持ちで負けないようにとは思っています。

──世界大会を経て充実している日本代表との対戦も一つのポイントだったと思いますが?

若手が力をつけているので、私も稽古を積んで負けないようにと思ったんですけども、もう一つ、と思いました。

──見つけた課題を一つひとつクリアしながら、まだ成長を感じられているということでしょうか?

そうですね。これからまだまだ、努力精進していきます。

──日本代表の若手たちの成長はどのように感じていますか?

日本大会で一緒に戦っていたときも、すごく頼もしかったんですが、また今年の韓国大会というすごく厳しい戦いを経験して、さらに力がついてきていると感じます。

──そのなかでも西村選手の強さは?

攻めの強さが一番ですね。素直な心を持って一生懸命努力するからこそ、ああやって成長しているんじゃないかと思います。

──西村選手に勝つためには?

一日一日の積み重ねが、いざ本番となったときに発揮されると思いますので、また頑張っていきたいと思います。

──現役を引退されてから、また充実期を迎えたような雰囲気がありますが?

それはどうでしょう。私のなかではこれまで通り、一回一回の稽古に課題を持って集中して取り組んだ結果だと思っています。また、一から頑張りたいと思います。

地力を発揮した日本代表選手たちと大健闘した伏兵。3位・ベスト8の選手に聞く|第66回全日本選手権インタビュー集(2)

2018.11.07