抜き勝負で行なわれる玉竜旗の醍醐味は、どんなに劣勢でも大将1人で抜き返せる可能性があること
これまで男子の決勝で大将が4人を抜いて逆転優勝したという記録が4度ある。
平成25年、37年ぶり4度目の4人抜きを果たしたのが福岡大学附属大濠高校の梅ヶ谷翔である。
高輪(東京)との決勝、高輪の次鋒・阿部凌大に、福大大濠は次鋒・原三四朗、中堅・矢野貴之、副将・萱嶋晃生が抜かれ、早くも大将梅ヶ谷の出番となった。
梅ヶ谷は龍谷(佐賀)との準決勝でも2人を抜くなど、すでにこの大会で7試合も戦っており、5試合連続で大将決戦に勝利して決勝にたどり着いていた。
「伝説をつくってこい」
という黒木貞光監督の声を背中に試合場に立つと、阿部、中堅平山直輝、副将重黒木俊介を倒し、大将佐々木陽一朗との決戦に持ち込んだ。
試合は20分に及び、決勝だけでも30分を戦っていた梅ヶ谷は手も足もつっていたという。
しかし力を振り絞って見事なメンに跳び込み、黒木監督の言葉通り伝説をつくった。
試合直後、黒木監督自身が
「優勝するとは……」
と逆転を信じられない様子のコメントを残している。
この年6月に行なわれたインターハイ福岡県予選では、福大大濠は初戦で福岡第一に敗退。
中堅戦で一本を失い、大将の梅ヶ谷は取り返そうと出たところでコテを奪われ、そのまま敗れた。
剣道を始めてから一番つらかったという敗戦で、玉竜旗での優勝を新たな目標としてこの日まで稽古の日々を送ってきた。
できなかった技を身につけようと、相手の出ばなに打つメン技の練習に重きを置いたという。
「狙える全国大会はこれしかないという想いがあったので、全員で戦って、どんな逆境で自分に回ってきても、自分が勝って優勝に導こうという形でした」
と試合後に梅ヶ谷は語っている。
その後中央大学に進んだ梅ヶ谷は1年生にしていきなり全日本学生チャンピオンとなり、翌年には全日本選手権に20歳にして初出場、3位入賞という見事な戦績を残している。