剣道における礼法
世の中には様々なスポーツがありますが、剣道と他のスポーツとの大きな違いは、やはりその礼儀に対する心構えになります。
剣道を始めると礼儀作法が身につくというイメージを持たれている方は多いでしょう。
実際に、子供さんに習わせるきっかけとして「礼儀作法を学んでほしいから」と考えている保護者の方もたくさんいます。
なぜそんなに礼儀作法に厳しいのでしょうか。ここではその理由、そして礼の作法、さらに美しい姿勢を通して綺麗な剣道へ結び付けていきたいと思います。
■礼儀とは相手への感謝を表すもの
スポーツは礼儀作法が厳しいのが一般的ですが、その中でも剣道は礼儀に関してはさらに厳しいと言えるでしょう。
剣道とは昔から「礼に始まり礼で終わる」ともいわれるほど礼を重んじる競技です。
対人競技であると同時に精神や技を高めるという自身の研鑽も重視されますが、そもそも稽古の多くや試合は相手がいなければできません。
「相手を思いやる心」、「相手の胸を借りる」などの謙虚な気持ちがあるからこそ、自信を持って続けていけるのです。
ゆえに相手の存在はとても重要であり、常に感謝、尊敬の念を持つことが大事と考えられています。その心情を目に見える形として表すものが”礼法”というわけです。
稽古や試合では、修行してきた相手に対する尊敬と、互いに力を出し切り戦ってくれた相手への感謝の気持ちを大切にすることはもちろんのこと、終始.正しい心・敬いの心・慎みの心といった礼儀を欠かすことなく、美しい剣道を作っていくうえで、礼法は大切なことです。
■礼の種類
実際に礼をする場面はたくさんありますので、今一度確認をしておきましょう。
道場の出入り、目上の方や先生方に、稽古前後に上座に向かって、基本打ちの際に試合開始前と、終了時に礼をおこないます。礼には2種類があり、立礼と座礼が存在します。
立礼
立礼とは道場に入る際の礼のことです。道場での礼は「この道場で稽古や試合ができる」という感謝の気持ちも入っています。
ですので初めて道場に入る際は「お願いします」と挨拶をした後に礼をします。
コツとしては、相手に15度から30度で首と背筋を伸ばしながら腰をゆっくり曲げていきましょう。
そのほかには、45度の深く礼をする場合が存在します。45度の礼では、師範や上座また、先生方に対しては、45度の深い礼を行います。
ここでポイントとなるのは、持参した防具袋です。最近はキャリータイプの防具バッグなども出ていますが、道場に入るときは持ち上げて入るようにしましょう。
道場内でキャリーを引くのは、マナー的にもおすすめできません。
座礼
座礼とは座って行う礼のことで、稽古を始める前などに行います。
正座で背筋をなるべく伸ばしたままゆっくりと腰を折って行き、両肘を床につけて行くように体を伏せていきます。
両手で三角形を作ってそこに鼻を入れるようにするのがコツです。座礼は主に先生方や、目上の方、師範などに対して行います。
基本的には「正面への礼」、「先生への礼」、「お互いに礼」の順番になります。ここでの正面は神棚を設置しているときは神棚の方向に、ない場合は上座の方向です。
試合における礼
上述したように、この競技は「礼に始まり礼に終わる」と言われています。
それは稽古の場だけではなく、試合・大会へ出場した際においても同じことが言えます。
相対している相手の目をみて、「正々堂々と戦う事」と「どうぞよろしくお願いいたします」という気持ちをこめて「礼」をします。
試合が始まるときには相手に礼をしてから所定の位置で構えます。また、終わるときにも最後は必ずお互いに礼をします。
また、試合中に審判に反則を言い渡されたときにも、審判に対して礼をするのです。
試合は「相手や審判がいるからこそできる」という考え方で行われるため、始まり、終わりの礼はいい加減にではなく、いかにびしっとカッコよくできるかという意識は他のスポーツと比べてもかなり高いといえるでしょう。
■正座について
座礼について触れましたので、正座についてもおさらいしてみましょう。
正座は稽古の始まりと終わりの他、試合を見ている間や応援をしている間なども基本となる座り方です。
正座の順序
1. 立っている状態から左足を後ろに引き、引いたつま先のあった場所に膝をつく(この時、つま先は立てておくこと)
2. 右足を後ろに引き、左足と同じ要領で膝をつく
3. 両ひざをつき、両つま先を立てた状態のまま踵の上にお尻を乗せる
4. 背筋を伸ばしたままつま先を寝かせていく
5. 右足親指の上に左足親指を乗せる
改まって書くと何だか難しそうですが、慣れれば意識しなくてもできるようになっていくでしょう。
自然と姿勢もよくなるためか、正座をする機会の多い人は普段の姿勢も良いといわれています。
■蹲踞(そんきょ)
剣道で見られる座法には蹲踞という姿勢があります。正眼に竹刀を構えたまま足を逆八の字に開き、踵を上げて膝を外向きにして腰を下ろす動作です。
そもそも、なぜ蹲踞を行なう必要があるのでしょうか。それは他者への敬意を表すためです。
蹲踞とは古くは貴人が通る際に身分の低い者が敬意を示す為にした動作の一つでした。つまり、蹲踞をすることで相手に対して練磨に付き合ってくれてありがとうと伝えているのです。
また、これから戦うにあたり気持ちを作るための動作としての意味もあります。
もともとは『跪踞(ききょ)』という足を閉じたまま膝を地面に着けて踵をお尻に乗せる座礼が相撲に取り入れられました。
ですが、その際に膝に土が着くのを力士は嫌いました。力士にとって『土が着く』=『敗北』だったからです。
そこで膝を地面に着けない蹲踞へと変わり、剣道にも取り入れられるようになりました。
この姿勢は慣れていないと非常に大変なため、昔の女子剣道では行なわれていませんでしたが、現在は男子と同じように蹲踞が取り入れられています。
同じ日本の国技だと大相撲で力士が取組前に行なっています。剣道では蹲踞の姿勢を取ってから、腰を上げて始めの合図を待ちます。
そして戦った後も元の位置に戻り、タイミングを合わせて蹲踞を行い、再び礼をして退場しなくてはなりません。
■まとめ
剣道と礼儀作法の関係についてご紹介しました。
剣道を行なう上で心掛けていきたいのは、心構えと共に姿勢が正しくあることです。
『礼に始まり礼に終わる』競技である以上、綺麗な所作を身につけることは昇段審査での判断基準に関わるだけでなく、選手としての風格も身につき、他の選手から一目置かれることにも繋がります。
実際には対人的な部分だけでなく、稽古・試合を行う道場や自分が使う剣道具にいたるまで、あらゆるものに対して礼を尽くすのが剣道といわれています。
剣道を長く続けていると、自ずと礼も正座も道具の扱いもごく自然にきちんと行うことができるようになるため、礼儀作法が身につくといわれるのかもしれません。