緊張を抑え、本来の力を発揮するには
学生剣士でもベテラン剣士でも、緊張とはまったくの無縁という人はそうそう居ません。
試合や昇段審査の時には大なり小なり上がってしまうという人がほとんどではないでしょうか。
中には緊張のあまり本来培ってきているはずの力が発揮できなくなってしまうなんて人もいるのでは。一体、緊張しないようにするためにはどうしたらいいんでしょうか。
ここでは試合や昇段審査など、緊張しやすい状況に置かれた時のために覚えておきたい、緊張を抑えるための方法をご紹介します。
■そもそもどうして緊張するの?
そもそも緊張はどうして起こるんでしょう。
緊張の仕組みのキーワードは『交感神経』。交感神経は人間に限らず動物が活動状態になるためのアクセルの役割をしています。
交感神経が活発に働くと、体がリラックス状態から臨戦態勢に切り替わるんです。
この交感神経をオンにするスイッチがアドレナリンというホルモン。アドレナリンは不安やプレッシャーを感じると分泌され、交感神経を刺激します。
太古の昔、狩猟をしていた頃には一瞬の気の緩みが命の危険につながりました。
交感神経の働きが活発になると瞳孔が開き、心拍数が上がります。脳の働きは高まり、呼吸が早くなります。
獲物を限界まで追いかけられるよう、もしくは危機から逃げ切れるよう、脳が身体の限界を引きあげてくれるんです。
交感神経が刺激されること自体は、身体の機能を高めてくれるので決して悪いことではありません。
でも車のアクセルを踏みすぎるとコントロールが利かなくなるように、交感神経が昂りすぎると「手が震える」「冷や汗が出てくる」「心臓がバクバクする」などのいわゆる『あがった』状態になってしまいます。
つまり緊張状態とは交感神経が働き過ぎて逆に身体の動きが阻まれている状態のことなんです。
交感神経の働きをちょうど良い程度に抑えるために必要なのは『副交感神経』の働き。
この副交感神経は人間がリラックスする働きをします。とはいえ、副交感神経が活発に動きすぎると最終的には眠たくなってしまいます。
大切なのは交感神経と副交感神経のバランスです。と、ひとことで言うのは簡単。
でも交感神経と副交感神経は自律神経といって、己の意思で働きをコントロールすることができない神経なんです。
「腕を伸ばそう」と思って腕を伸ばすことはもちろんできても、「緊張しているな、副交感神経を少し働かせよう」なんてできませんよね。
ということで、過度に緊張している時には副交感神経の働きを助けるための動作を行う必要があります。
■方法その1:丹田を意識して深呼吸
緊張を止めるとは、つまり交感神経と副交感神経のつり合いを取ること。
「たかが深呼吸で?」と思うかもしれませんが、実は深呼吸は副交感神経の働きを高める有効な手段なんです。
コツは吐く呼吸を意識すること。浅く早い呼吸は逆効果です。ゆっくり、長く息を吐きましょう。
丹田から細長い息を押しだすようなイメージで深呼吸をすると、丹田を意識することにもつながってより効果的です。
ベテラン勢はともかく、学生剣士さんたちは丹田の位置をきちんと理解していますか?
丹田とは臍下三寸といいますが、あまりピンポイントに考えすぎず、お臍の下側・下腹と思えば大丈夫。
普段の意識していない呼吸はほとんどの人は肺呼吸になっています。
丹田を意識して息を吐くと自然と深い腹式呼吸になり、副交感神経を働かせることができます。
どうしても腹式呼吸がよく判らないという人は、お臍の下に手のひらを置いて、その手が上下することを意識しながら呼吸してみましょう。
吸うことよりも吐くことを意識するのがポイントですよ。
■方法その2:ルーティンやジンクスを作る
試合や昇段審査のたびに毎回毎回緊張しすぎて思うような結果を残すことができないという人は、ルーティンやジンクスを作りましょう。
小手は右手からつける、試合の時にはいつも同じてぬぐいを身につけると調子がいい、そんな小さなルーティンやジンクスがある人がいますよね。
人によっては馬鹿らしいと感じるかもしれませんが、実は緊張を緩和させるのに効果があるんです。
過度の緊張状態の時というのは、同時にネガティブ思考やパニックに陥っています。
「相手が強いからきっと負けてしまうだろう」「どうせ昇段審査に落ちてしまうに違いない」こんな考えにとらわれて、自分で抜け出しにくくなってしまっているんです。
他のスポーツ以上にメンタルの状態に左右されやすいのが剣道。
どうせ駄目だ、なんて思っていたらうまく行くものもいかなくなってしまうのは冷静な時なら判りますよね。
そんな過度の緊張状態の時に、ルーティンやジンクスを実行すると、まず身体が普段通りだと感じます。すると自然と普段の冷静さを取り戻すことができるんです。
プロのアスリートの中にも、ささやかなルーティンやジンクスを持っている人はたくさんいます。大げさなことでなくてもいいんです。
練習の時に黙想を欠かさない人なら、試合の前にもしっかり黙想を行うのもいいですね。
もしくは試合や昇段審査などの特別な機会に限らず、練習の前に好きな曲を聞くようにするというのも効果的。
ポイントは試合前、昇段審査前に限らず、普段からルーティンやジンクスを意識しておくこと。
普段から行っているルーティンや大切にしているジンクスを緊張時に実行することが「自分はあれだけ練習したんだから大丈夫」「この手ぬぐいを身につけているから大丈夫」と、自信を取り戻すきっかけになるからです。
■まとめ
・”緊張”とは、不安やプレッシャーを感じるとアドレナリンが分泌され、交感神経が活発になり過ぎた状態
・交感神経の働きすぎを抑えるには丹田を意識した深呼吸などで副交感神経を働かせることがポイント
・ルーティンやジンクスを作り、緊張状態から意識的に抜け出す術を持っておく
少々の緊張は身も心も引き締まるので大切なもの。
でも、本来の実力が発揮できなくなるほど上がってしまうのは困りものですよね。
緊張を自分でコントロールするための近道は、リラックスのための行動を覚えておくこと。
深呼吸やルーティン、ジンクスをぜひ取り入れてみてください。
きっと次の試合や昇段審査ではあなたの実力を十二分に発揮できるようになるはずです。