【連載①】剣道でも人間としても一流を目指す | 中村学園女子高校レポート

中村学園女子高校
全国高校選抜大会では、女子も本命中村学園女子高校(福岡)が連覇を達成した。全国選抜直後の魁星旗大会でも優勝を果たしたが、 このままでは次はないという危機感さえ抱いて、夏へのスタートを切っていた。
インタビュー
取材日=平成30年3月
写真=窪田正仁

全国高校選抜大会を連覇した中村学園女子高校(福岡)

福岡市にある中村学園女子高校は、平成28年にインターハイを初制覇してから29年の全国選抜とインターハイ、さらに今回(平成30年3月の全国高校選抜剣道大会)と公式戦で勝ち続けている。
まさに黄金時代を迎えているが、岩城規彦監督は「毎年チームは変わるので一からつくり直す」とつねづね話している。

■毎年一からつくり直し、という姿勢

中村学園女子高校の部員

部員数は新入生を加えて16名と決して多くはない

平成28年夏からすべての大会にレギュラーとして出場しているのが、主将の妹尾舞香選手(新3年生)である。福岡の名門今宿少年剣道部出身、玄洋中学校時代に全国中学校大会の団体・個人ともに頂点に立ち、入学後は1年生からレギュラーに入り、昨年は2年生にしてインターハイ個人も制した。

「この子の力は大きいです。高校生でジャパンの合宿にも呼ばれていますし、ずっと教員をやっていてもなかなか巡り合って教える機会のないレベルの選手だと思っています。それにつれて周りもいい選手が来てくれて、私が一生懸命やっているところにちょうどタイミングがあったのではないかなと思っています」

と岩城監督は話す。

今回のチームは他の選手の経験が乏しかった。昨年インターハイに出場したのは妹尾選手以外の4名が当時の3年生。今年のチームでは副将を務めた諸岡温子選手(新3年生)が玉竜旗大会や魁星旗大会に交代で出場したくらいで、残る3名は新2年生でもあり全国の団体戦の舞台は経験がない。

「今まで優勝したチームの中で比べると一番弱いです。妹尾というエースはいますが、あと4人、誰が勝つか分からないというチームですから。(全国選抜大会は)力以上のものがよく出たと思います。だから勝っても褒めちぎるわけでもなく、今のままだったら次はないよ、という言い方をしました」

実際に、全国選抜大会の前、2月10日~11日に行なわれた九州高等学校選抜剣道大会では、準々決勝で三養基高校(佐賀)に敗れ、ベスト8という結果に終わっている。先鋒、次鋒が引き分け、中堅、副将が敗れ、妹尾選手に勝負が回ることなく終わった。

「それも全国へ行くまでの勉強というか、反省材料ですよね。私は心配していて子どもたちにも伝えていたんですが、自分たちはたぶんそうならないと思っていたでしょう。それが実際起きてしまったので、すごくいい薬になったと思います。去年は四つ(四大大会)取るぐらいですから、個々の力が長けていました。今年も取れるかというと、いつ負けてもおかしくないです。皆さんは当然、大将にまわさないようにしようと考えるでしょうから」

毎年一からつくり直し、という姿勢は九州学院の米田監督と同じである。岩城監督にとっても連覇はあくまで結果としてついてくるものなのかもしれない。しかし、まだまだ力が足りないというチームでも終わってみれば優勝だった。日々の取り組みの中にそれをなし得た理由が何かあるはずだ。

■部員に合わせて稽古内容は変化

学校創立は昭和35年

学校創立は昭和35年。近年になって中学生部員も入るようになり、現在6名の部員が一緒に稽古している

中村学園女子高校剣道部は昭和48年に創部され、久間弘喜氏がその基礎をつくりインターハイや全国選抜出場に導いた。

平成9年に岩城監督が赴任し、玉竜旗では平成17年に初優勝。それ以来6回優勝を重ねる。

全国選抜では平成20年の初優勝以来今回を含めて5回優勝、なかなか手にすることができなかったインターハイを平成28年に初制覇すると翌年も優勝と、数々の栄冠を手にしてきた。

その年の玉竜旗大会から、魁星旗大会を含めた四大大会に範囲を広げても今回まですべて優勝。

高校女子剣道史上に例がないほど勝ち続けているチームとなった。

剣道部のほかにも、ソフトテニス部、バスケットボール部などインターハイ優勝経験のある種目もあり、部活動は盛んであるが、決して環境的に恵まれているとはいえない。

道場はなぎなた部と共用で、もともと横幅は試合場が取れないほどの大きさだが、月曜と水曜はなぎなた部が全面を使用し、代わりに火曜と木曜は剣道部が全面を使用、金曜と土曜は半面ずつ使うことになっている。

道場が使えない月曜日はトレーニングにあて、水曜日はオフにしたりミーティングをしたりしている。

「水曜は常時オフというわけではないですが、自分たちの日ということにしています。何もやらないで帰るときもありますし、トレーニングが足りない子はさせたり、練習したい子はどこかでしているでしょう」

トレーニングは10年以上前から外部のトレーナーに指導を仰いでいる。サッカー出身のトレーナーだが、剣道の試合も見に来て剣道に必要な動きに応じたことを指導したり、個人的にも弱点を重点的に指導するなど、細かい対応をしてもらっているそうだ。

現在の部員数は新3年生がマネージャーを含めて5名、2年生が6名、新入生が5名。自宅から通っているのはそのうち妹尾選手を含む2名だけで、それ以外は寮生活をしている。剣道部がひとつのフロアにまとまっているが、他の運動部とも一緒の寮である。

「たまに抜き打ちで寮に行ったりします。掃除がきちんとできているかなどを見たり、寮母さんがいらっしゃるので、普段の生活を聞いてみたりします」

道場内にある黒板

道場内にある黒板。このほかにも個人の目標を書いた紙など、道場内はポジティブな言葉があちこちに書かれている

平日の稽古は4時30分頃に始まり、7時40分頃まで3時間あまり。だが、稽古時間は春から夏に向けて比較的短くなっていくという。

「これからは試合が続きますから、短い中で効率良くしてあげた方がいいと思っています。ケガも少ない方がいいですし。冬場はじっくり鍛えて、春先暖かくなって少し体が動くようになったときにどれだけ動けるかということですね」

稽古の中では岩城監督がその稽古の目的や注意点、体の使い方などを懇切丁寧に説明していたのが印象に残った。稽古内容はその年によって違ってくる部分もあるという。

「本筋、基本は毎年一緒ですけど、たとえば選手の体の大きさによって技が違ったりしますよね。そういう戦術的なものとか、その子に合った稽古をします。今年は全体に小さいので、練習の中でも足を使うこと、運動量を意識しています。それとウェイトトレーニングを重視しています」

稽古が始まる前に、妹尾主将が紙に書いて壁に貼られている「私たちは2018年8月9日から始まるインターハイで……」から始まる「目標」を読み上げ、全員がそれを復唱する。そのほかにも個人の目標や注意点などが紙に書いて貼られていたり、黒板に書かれている。岩城監督はメンタル面については時間をかけて指導しているという。こういった文字による意識づけもその一環だろう。また、すべての場面で選手全員が腹から大きな声を出していたのが印象的だった。

確かに心技体の技と体はまだ発展途上のチームなのだろう。ならば、この日は詳しく聞けなかったが、勝因はその「心」の指導の中にあるのではないだろうか。

【連載②】監督・選手が語る中村学園|中村学園女子高校レポート

2018.04.26