【連載①】玉竜旗2位でも優勝候補ではなかったチームが|清家羅偉選手 スペシャルインタビュー

清家羅偉選手
清家羅偉(せいけ らい)
平成29年度インターハイ男子団体優勝・高千穂高校(大将)
インタビュー

父を超える日

2017年のインターハイ剣道大会、男子団体を制したのは高千穂高校(宮崎)だった。

かつて大会史上初の男女団体アベック優勝を果たすなど男女合わせてインターハイ団体優勝6回を誇る伝統校だが、男子団体優勝は26年ぶりのこと。

決勝の代表戦を制したのは大将・清家羅偉。

その父・清家宏一氏が26年前の優勝時に在籍していたことが話題になった。

だが、後に世界選手権で日本の大将を務めた上段の名手は、26年前確かに高千穂高校剣道部員だったが、そうそうたるメンバーの中でレギュラーに入れなかったという。

清家羅偉が高千穂に来るきっかけをつくったのはその父だった。

そして高校時代の戦績では父を超えた今も、小さい頃から目標にしていた父はまだはるか遠い先で光を放っている。今回、父である宏一氏にも加わってもらい話を聞いた。

■決勝、代表戦の決勝打は、打ったことのない技だった

宮城県のカメイアリーナ仙台で行なわれた2017年のインターハイ、最終日の決勝トーナメント1回戦で波乱が起こった。

大会史上例のない団体5連覇を目指した九州学院(熊本)が水戸葵陵(茨城)に敗退。会場のどよめきはしばらく収まらず、その後も落ち着かない空気に包まれた。新たな王者となるのはどのチームか。

高千穂は決勝まで進まなければ九州学院とは対戦しないブロックにいた。清家ら選手たちは、試合のない時間帯だったのでこの一戦を目の当たりにしたという。

「まさか(九州学院が)負けるとは思わなかった」

自分たちが決勝に行くとは思っていなかったので、(九州学院と)当たることもないだろうなと。(目の前の試合に)勝たないといけないので、気にしている暇はなかったです。

大会の約2週間前に行なわれた玉竜旗高校剣道大会で高千穂は決勝に進出、九州学院に敗れたものの準優勝を遂げた。

このチームはそれまでに大きなタイトルを取ったこともなく、7月上旬の全九州高等学校剣道競技大会ではベスト8止まり。

玉竜旗前の下馬評で優勝候補にあげられることはなく、清家自らが「びっくりしました」と語る好成績だった。玉竜旗準優勝の結果を残してもなお、インターハイで高千穂を優勝候補に数える人は多くなかっただろう。

打倒九州学院の一番手としてあげられていたのは水戸葵陵、島原(長崎)といったチームだった。

そして本命を倒した水戸葵陵は続く準々決勝で早くも島原と対戦する。この一戦を制したのは島原だった。

島原はさらに本庄第一(埼玉)を下して決勝に進む。

■苦戦の連続の中で「清家に回せば……」のムードが

高千穂が決勝に勝ち上がる道のりも平坦ではなかった。

予選リーグ第1試合こそ中堅林拓郎以外の4人が勝って4─0で前橋育英(群馬)を下したものの、大社(島根)との第2試合は先鋒から中堅まで引き分け、副将甲斐慈玄が延長に入ると同時に面を奪われ0─1で大将戦となる。ここで登場した清家が真価を見せた。2分30秒ほどで面を二本奪い、逆転勝利で予選リーグ突破を決める。

仙台育英(宮城)との決勝トーナメント1回戦も厳しい試合となった。

先鋒石本大来が一本を先取するも奪い返されて引き分け、次鋒古澤由太郎は快調に二本勝ちを収めるも、中堅林が面を奪われ敗退。

さらに副将甲斐が1分余りで二本を失い、再び清家の勝利が必要な場面となる。ここで清家は面を先取、そのまま一本勝ちなら代表戦にもつれ込むところだったが、さらに小手を決め一気に逆転勝利を収めた。

清家自身、この仙台育英戦が決勝以外で一番印象に残っている試合だという。会場全体にも清家の強さが印象づけられた。清家に回せば……という雰囲気が漂い始めたのは確かだった。

本人も「自分まで回せば決めてやる」という気持ちだったという。

安房(千葉)との準々決勝は石本の勝利で1勝1敗で迎えた副将戦で、この試合から起用された2年生の谷口琢真が見事に二本勝ち、清家もわずか38秒で二本を奪い突き放した。

準決勝、初のベスト4入りを果たした佐野日大(栃木)に対しては、先鋒石本が快調に二本勝ちを収めると古澤も一本勝ちで続く。

谷口が敗れたものの、清家は危なげなく引き分け、相手の追い上げを許さずに決勝へ駒を進めた。試合が進むにつれチームの戦いぶりに安定感が増していった。

玉竜旗準優勝はフロックではなかったと、対戦相手も見る者も感じ始めていただろう。

■決勝の大将戦で敗れるも、代表戦で取り返す

平成29 年インターハイ男子団体決勝、代表戦で清家が面を決める

そして迎えた島原との決勝。

大会初日の個人戦で、岩切勇磨(九州学院)との試合が50分を超え引き分け再試合となった中堅林は、団体戦ではここまでまだ一勝もしていなかったが、この大事な場面でチーム唯一の勝利をあげた。

ところがこの最後の大事な場面で清家が初めて敗れる。ここまで清家とまったく同じ4勝1分と力を見せていた島原の大将志築柊威に突きを奪われ、決勝は代表戦にもつれた。

高校時代の集大成となる代表戦は始まって1分56秒、清家が小手を放ち相手が下がったところに面。志築も面に出るが、清家が完璧に打ち勝った。

高千穂の野口貴志監督も清家自身も、狙って打ったのではなく「身体が反応した一本」だったという。そして野口監督によれば今までの清家にはない技だったという。

「そうですね。出ばなが得意だったので……。決勝は自分から攻めようと思っていたので、それが最後の技につながったと思います」

と清家は優勝を決めた一打を振り返った。

【連載②】大阪から、父が高校時代を過ごした高千穂へ|清家羅偉選手 スペシャルインタビュー

2018.04.25