【連載②】監督が感じた「心の弱さ」|飯田良平監督のラストシーズンを追う

3月18日、近畿高等学校選抜大会 松澤選手がこのチームキャプテンを務める
3月18日、近畿高等学校選抜大会 松澤選手がこのチームキャプテンを務める
インタビュー

3月18日、近畿高等学校選抜大会

赤穂市民総合体育館で行なわれる第11回近畿高等学校剣道選抜大会。

育英はこの大会で2回優勝しているが、2回目の優勝は7年前である。前述のようにレギュラーに入れない新3年生を出場させたりしていたが、今年は優勝を狙ってベストメンバーを揃えた。

といってもまだレギュラーが固まったとは言えない段階のようだ。

予選リーグ第1試合、草津東(滋賀)との対戦は先鋒から順に大津遼馬、松井奏太、榊原彬人、福岡錬、松澤尚輝というメンバーで臨んだ。全員が2年生である。

大津が一本勝ち、松井は引き分けたが、榊原、福岡が二本勝ちを重ね勝利を決める。松澤も一本勝ちで続き4―0とする。まずは順調な立ち上がりに見えた。

しかし続く龍谷大平安(京都)との一戦は苦戦する。

この試合は先鋒、次鋒を代えて臨んだ。先鋒は阿部壮己、次鋒には久住俊介。この2人も2年生である。阿部が面を奪い幸先よく勝利。久住は立ち上がりから落ち着いた試合ぶりに見えたが、終盤小手にいったところが決まらず、そこに面を決められて敗れる。試合が振り出しに戻ると、続く中堅榊原にはやや固さが感じられた。動きが止まったところを面に跳び込まれ一本を献上する。そのまま試合を落とし、龍谷大平安にリードを許す。

動揺する場面だが、副将の福岡は落ち着いていた。勢いに乗って攻める龍谷大平安の小角亮輔だったが、それをしのいでいた福岡が意表をつく見事な諸手突きで一本を奪う。そのまま勝利し、同点とした。

草津東との対戦結果により、同点ならリーグ戦を抜けることができる。松澤は無理をせずに引き分けで試合を終えた。ピンチを迎えたが、後衛二人には経験を積んだ強さが感じられた。

「この前の違う試合で、同じ場面で打たれてしまってチームを負けにしてしまったので、今回は絶対打たせないという気持ちでした」

と松澤はこの試合を振り返った。

飯田監督はリーグ戦を終えて、

「全国選抜よりもまずこの試合をしっかりやれよと言ったんだけど、あかんね」

と記者に話した。

「選抜に向けての自分の生き残りもかかってるから。敵よりも、選手に残らなければあかんということで、思い切った技が出ない。榊原なんか去年一昨年、インターハイ2回、選抜で負けたことないのに、それが負ける。相手がちょっと強くない学校だとと思ったら気が緩むんです、あの子は。それでまた締め直して頑張ることは頑張るんだけど、それが心の弱さなんだね」

■「心の弱いチームだと思いました」

飯田監督と部員の姿

試合の前後には必ず選手を集めて話をする。すべてが聞き取れたわけではないが技術的な注意が多かったようだ

トーナメントは8校によって行なわれる。

まず準々決勝で箕島(和歌山)と対戦した。メンバーは先鋒に阿部、次鋒に大津が入った。後ろ3人は変わらない。結局ここから決勝までを同じメンバーで戦った。

阿部が引き分けたあと、大津が終了間際にひき面を決めて勝利。榊原は引き分け。福岡は前半ヒヤリとする場面はあったが、前の試合同様落ち着いた戦いぶりで、ひき面を決めて一本勝ち。これでチームの勝利が決まった。

試合前、

「次がヤマです」

と飯田監督は語っていたが、堅い試合ぶりで乗り切った。

2度目のヤマとなったのは準決勝だった。

奈良大附属(奈良)との一戦は5試合すべて引き分けで代表戦となる。大将の松澤は、前の試合で勝敗決した後とはいえ二本負けしていた。しかしもちろん代表は松澤である。対する奈良大附属の根本勝也が逆胴、ひき胴などを放つもじっと耐え、長い試合になったが出小手を決めてここを乗り切った。

「全員が自分につなげてくれたので、最後は自分が勝ってチームを決勝に上がらせて、優勝させるという気持ちでした」

と松澤。

決勝は同じ県内の東洋大姫路との対戦。

相手をよく知っているからだろうか。過去の試合で勝っている自信からだろうか、明らかに選手たちの動きがよくなった。阿部、大津、榊原と3連勝であっさりと優勝を決める。福岡は引き分け、松澤が勝って4―0とした。

「いっぺん死にましたから。奈良大さんとは1年生の時からずっとやっていて手の内分かっているからね。森本(大介)監督もいろいろしかけてくるから、なかなか一本打たせてくれない。中堅(榊原)のひき面、ひき胴を一本にしてもらえないのが榊原の甘いところで、だから結局大将が苦労する。決勝は前3人で勝負ついたけど、あれがよく知っている東洋さんだから気楽に行けただけで、ちょっと知らないチームだったら予選リーグの平安さんのような試合になってしまうんです。ただ、東洋さんもインターハイ予選ではまた違いますから。今日もいろいろ材料ができたから、選抜まで、明日からやり直しです」

と飯田監督。

狙い通り優勝はしたが、奈良大附属戦と同様、龍谷大平安戦の戦いぶりは心に引っかかったようだ。

「あそこで中堅が打たれて、副将の突きがなかったら本当にどうなったかわからない。とくに高校生の試合だから、力の差があってもちょっとした流れで……。九州の子みたいな執念がないし、関東でも佐野日大さんなんかは俺たちが勝つんだというような思いを持っているけど、それもない。ずっと言っているけど、どこまで意識しているのかなと思うんですね。これを何とか選抜までに……」

中堅の榊原のところで流れが大きく変わっただけに、とくに、本来力のある榊原に対して精神面での成長を期待しての言葉が続いた。

福岡、松澤らはピンチの場面でも動じない心の強さを見せたように思える。

松澤は試合後、

「前がしっかりしてくれたおかげで、自分もいい試合ができたなと思います」

と語っていた。

表彰される育英高校

何はともあれ優勝という結果を残した

ピンチを乗り切って優勝したことで精神面も一回り成長したのではないかとも思えるが、飯田監督と選手ではまだ意識の差があるのかもしれない。

福岡や松澤も含めて、全国で戦うにはまだまだ足りないと飯田監督は感じているのではないか。確かに決勝のような精神状態で戦えばすべての試合でピンチを迎えることなく、圧勝できたようにも思える。

試合を終えて会場の外で、応援の父母やOBへの挨拶でも飯田監督は、

「本当に心の弱いチームだと思いました。平安戦で負けていてもおかしくありません」

と語った。

だがメンバーについては「最終型が見えた」と飯田監督は言う。全国選抜は9日後に始まる。

【連載③】全国選抜大会、激戦の後に生じた心の隙|飯田良平監督のラストシーズンを追う

2018.05.11