注目の若手、持ち味を発揮した中堅……健闘した各剣士に聞く|第66回全日本選手権インタビュー集(3)

1回戦、山田凌平(北海道)が坂口洋司(京都)にコテを決める
試合リポート
取材・構成=鈴木智也、岩元綾乃

学生最後の試合、北海道の人たちのためにも
山田凌平(北海道・明治大・21歳)ベスト16(3回戦敗退)

3年前の世界選手権大会において、大学1年生(メンバー発表当時は高校生)にして日本代表として活躍し話題となった。その後、明治大学では2年時に全日本学生選手権を制するなどの戦績を残すも、最終学年の今年は関東学生選手権で初戦敗退など振るわず。しかし大学最後の試合となる初めて出場したこの大会で、3回戦進出を果たした。

──終わってみて率直な感想は?

やっぱり悔しいですね。

──初の全日本の舞台はどんな雰囲気でしたか?

1回戦が重要だと思っていたので、初戦は少し慎重にいきすぎてしまった部分がありました。自分の得意な面技や、相手が出てくるところを打つことがあまりできていなかったと思います。流れをつくるのにちょっと時間がかかってしまいました。

──3回戦の竹下(洋平・大分)選手との試合を振り返って下さい。

代表合宿で一度ぐらいは経験があったのですが、私も苦手ではない選手でしたので、いけるかなと思っていた部分はありました。ただ、やはり打ちも強いですし、簡単には打たせてくれませんでしたね。一本奪われてこちらが焦ったところの引き面など、うまさもありますし、完敗でした。

──学生剣士としての出場でしたが、どういう思いで戦いましたか?

学生最後の試合でもあったので、練習から気持ちを入れて取り組んでいました。4年生の関東個人は1回戦で負けてしまい、その悔しさもあって、全日本選手権の予選会に出ようと思ったので。予選を勝って、絶対に選手権に出るという目標が達成できたことはホッとしています。この試合が近づいてくるに従って優勝したいという気持ちも出てきましたし、北海道で予選を勝ち抜いてきたので、北海道の人のためにということも考えていたので、やはり悔しいですね。

──明治大学での4年間で得たものは?

高校までは練習時間も多く、みっちりやっていたのですが、大学では2時間という決められた時間のなかで、どれだけ自分が求めてやれるかというところを教えてもらったと思います。

──明治大学のチームメイトでもある、千田(海・宮城)選手も一緒にこの舞台に立つことができました。

お互いに切磋琢磨してきた仲間でしたし、千田選手が一度選手権に出場していたので、選手権の空気や初出場の雰囲気をいろいろと教えてくれました。それで、少しは楽な気持ちで試合ができたのかなと思います。

──全日本の舞台で戦える手応えは感じましたか?

いえ、まだまだですね。3回戦まで勝ち上がりはしましたが、まだまだ自分の思ったとおりにはできないなと思いました。

──また日本一を目指したい?

卒業後は北海道警に入るので、そこで日本一を目指したいなと思います。北海道警は警察大会も一部ですし、栄花先生や安藤先輩など、小さい頃から知っている方々に指導を頂きながら、また頑張りたいと思います。

教員もできるんだぞというところを見せていきたい
村上雷多(大阪・教員・28歳)3回戦敗退(ベスト16)

少年時代、桐蔭学園高校時代から全国レベルで活躍し、筑波大学では大将として全日本学生大会団体優勝を果たした。大阪体育大学の監督としても団体日本一を経験している。28歳にして府警の強豪選手が立ちはだかる大阪から初出場を果たし、その大舞台で今回出場した教員としては最高となる3回戦進出を果たした。

──全日本選手権初出場の感想は?

思っていたよりも緊張はしませんでした。ワクワクする気持ちが緊張に勝っていました。1回戦は身体も動かずにガチガチだったのですが、2回戦、3回戦では自分の剣道を出すことができたと思います。

──強豪ばかりの大阪予選を抜けての出場です。

今年はずっと調子も良かったですし、今まで、自分の剣道に迷いといいますか、自分の良さが見えなくなっていた部分もあったのですが、大阪予選会ぐらいから少しずつ本来の力を取り戻すことができて、「こうやるべきだ」という部分が少しよみがえってきました。それが良かったのかなと思います。

──内村(良一・東京)選手との3回戦はどういう気持ちで戦いましたか?

内村選手はスーパースターなので。私は初出場ですし、残り5分間は力を出し切るつもりで。退いたら負けると思っていましたので、かかる気持ちでのぞみました。

──内村選手にはどんなイメージを持っていますか?

やはり隙がないと言いますか、オーラがすごいですね。これまで合宿の練習試合などで何回か手合わせの経験はありますが、勝ったことはないかもしれません。返し技が得意だということが、ずっと頭にありました。あれだけは打たれないようにしようと思っていたので。なので、ここで捨て切ったら返して打たれるかもしれないと……。突きを打とうとも思っていたんですが、返し技が怖くて打てませんでしたね。結果的にも最後は返し技を打たれてしまったのですが、そこで捨て切れなかった、もう少しできたのではないかという感じはあります。やはりまだまだ足りないですね。

──また出場したいというお気持ちでしょうか?

そうですね。もう一度出場したいと思える大会ですよね。教員でもできるんだぞということをこれからもしっかり見せていきたいと思っていますし、それを学生たちに見せることも私の仕事だと思いますので。一生懸命やって、もう一回挑戦したいと思います。

狙うのは出ばなメン。目標は6回勝つ、だった
平野伸一郎(埼玉・埼玉県警・35歳) ベスト16(3回戦敗退)

青山学院大学から埼玉県警へ進んだ上段剣士が、35歳にして初出場を果たした。1回戦では昨年ベスト8の山本隆裕(広島)、2回戦では恒川和也(埼玉)を破る。松﨑亮介(宮崎)との3回戦は長い試合の末コテを奪われた。

──今回初出場ですが、若い頃から予選に挑戦してきたのでしょうか。

今回が12回目の挑戦です。

──一度出るのが夢だった?

そうですね。剣道始めた頃からの夢でした。

──1回戦、実際にこの舞台に立ってみてどうでしたか?

緊張しないで済んだので良かったなと思います。

──今の試合(3回戦)は長くなりましたが、どんなところを狙っていたんでしょうか。

相手が前に出てくるところをずっと狙っていました。しかし相手もなかなか打ってきてくれないので、思い切り入らなきゃと思って入ったのですが、先に打たれました。

──初めて出てベスト16という結果に関しては?!

目標は6回勝つ、だったので、目標にたどり着けなくて残念だなという思いはあります。しかし親にも家族にも私がこの場で試合をしている姿を見せることができたので、よくはないですけど、また次につながるかなと思います。

──上段はいつから遣っていますか?

高校2年生になるちょっと前からです。

──自分の特長はどんなところだと思っていますか?

私はもう出ばな面ですね。たとえば神奈川の野村(洋介)選手のように体の能力があるわけではないので、片手で竹刀を自在に操るようなことはできず、狙いすましたところに技を出すということしかできません。なので全部決めるつもりでやっています。

落ち着いてできたが、気がゆるんだところを打たれた
松﨑賢士郎(茨城・筑波大・20歳)ベスト16(3回戦敗退)

筑波大学2年生、今大会最年少の選手が3回戦まで進んだ。島原高校時代は九州学院の星子啓太選手の好敵手だったが、その星子が同じ筑波大に進み今年の世界選手権でも活躍する一方で、松﨑はこの大会の出場権を獲得。初めての大舞台に臆することなく冷静に戦い、2勝をあげた。

──3回戦(対前田康喜・大阪)は、追いついてすぐに決勝の一本を取られました。

そうですね。取り返してとりあえず安心してしまったというか、そういう心のゆるみが出てしまったと思います。

──最年少の20歳なので、予選出たのは初めてですね。出場権を得られると思っていましたか?

そうですね。もちろん狙って行きました。

──全日本選手権にはどんなイメージを持っていましたか?

小さい頃から夢見てきた憧れの舞台です。ずっとこの舞台に立って活躍することを目標に頑張ってきました。

──その夢の舞台で、1回戦は緊張しませんでしたか?

意外と気持ちは入って、スムーズに行けたと思います。

──学生の大会と比べて雰囲気はどうですか。

学生の大会よりも神聖なところがあって、いつもと雰囲気がちょっと違ったんですけど、そこは落ち着いてやれたかなと思います。

──いつもの自分の剣道ができましたか?

そうですね、1回戦、2回戦は。

──前田選手に対してはどういうイメージを持っていましたか?

先々月に行なわれた世界選手権大会でも素晴らしい活躍をなさっている先輩という印象だったので、胸をお借りするつもりで思い切って行こうと思ったんですが……。

──先に取られたのは面抜き面でした。

そうですね。あそこで技を出せるというのが、自分と前田さんの差でもあったと思います。あそこは自分の気がゆるんでいたところだったので、反省して次に活かしたいと思います。

──残り時間はあんまり慌てている様子でもなかった。

そこは開き直って。一本時間内に取りたいという気持ちはあったんですけど、そこであせってしまったら元も子もないと思ったので、落ち着いて冷静に行こうと思いました。

──それで一本一本にしましたが。

そこでやっぱり気持ちが無意識にゆるんだというか、気持ちが作れてないまま勝負に入ってしまいました。

──学生の団体戦が終わったあと、どんな感じで稽古をしてきましたか?

全日本の学生団体では、決勝で自分が二本負けして自分のせいで負けてしまったので、すごく落ち込んでいたんですけれど、チームメイトのみんなにも先輩方にも、お前は気持ちを切り替えて全日本選手権に向けて頑張れというふうに励ましていただいたので、気持ちを切り替えられました。

──来年、再来年、この大会への展望は?

出場できた喜びというより悔しさが残る大会になってしまったので、来年はその悔いを晴らせるように、しっかりこれから1年間また稽古に励んでいきたいと思います。

去年の自分より今の自分の方が強いという実感はある
林田匡平(福井・教員・24歳)2回戦敗退

筑波大学時代は団体、個人ともに日本一に輝き、社会人2年目の昨年、本大会に出場していきなり3位まで上り詰め注目を集めた。今年の世界選手権メンバーにも入っていたが試合出場機会はなく、地元福井の国体でも優勝を果たせずに終わる。本大会にかけていたというが、2回戦で強豪勝見洋介(神奈川)に敗退。

──敗れた試合を振り返ってください。

一本取られた技は自分としても手応えがあったので、正直動揺した部分はありました。そこから取り返そうと思ったのですが、時間がありませんでした。

──前回大会は初出場3位、世界大会の日本代表にも選出されましたが、そのあたりで気持ちの変化のようなものはありましたか?

代表に選んでもらったというのは自信にはなっていたのですけど試合には出られなくて、福井国体も負けてしまったので、今回は結構かけていた部分がありました。

──強化合宿を重ねてきてさらに自信を深めていった。

そうですね。そこまでの自信はなかったのですが、今大会は多くの経験をさせていただいて、自信を持って臨めたし戦うことができました。

──国体が終わってから稽古は充分にできましたか?

できるときとできないときの差が激しいんですけど、できないときはできないなりに自分でいろいろ考えてやってきたつもりです。武道館の同僚にも剣道をやっている方がいるので元に立ってもらったり、福井の警察に行かせてもらったり、大学に行かせてもらったりして、自分で稽古場を積極的に見つけてやってきました。

──国体が終わって一段落してからここまで一か月の気持ちの作り方は。

国体で結果が出なかったので、気持ちの面に関しては国体終わって全然満足することなく、この試合に向かってこれたのですが……。

──昨年は、なぜ3位になることができたと感じていますか?

自分の剣道が出し切れたからだと思います。対戦相手のほとんどが警察官で、しっかりと構え合ってくれる部分も自分には合っているのかなと思います。

──昨年の好結果はプレッシャーになったりしませんでしたか?

重圧はありましたが、それ以上に、実際に自分の剣道も昨年の全日本選手権から良いように伸びてきたと思うので。去年の自分よりも今の自分の方が強いという実感はあります。

──世界大会で、代表に入りながら試合に出られなかった気持ちは?

悔しさもありますが、自分が出ないということは誰かがダブルエントリーになるわけで。自分がもっと信頼されていれば他のメンバーに負担をかけなくても良かったわけですから、申し訳ないという気持ちもありました。皆さん疲れ切っていたのを知っていたので。

──2度目の全日本選手権を終えて感じることは?

1試合目はあまり納得いくものではありませんでしたが、2試合目は途中まで自分の剣道ができていたと思うので、悔しいですけど充実感もあります。まだ優勝する力はないと思いますが、昨年とは違って今回はそこを目指して稽古を重ねることができました。来年は仕事も忙しくなって今と同じような稽古環境ではなくなると思いますが、未知の世界は楽しみでもあります。生徒を指導しながら、自分も上を求めて頑張っていきたいと思います。

前もってもっと準備をしておかなければ勝てないと知る
岩切崇聡(大阪・大阪府警・30歳) 2回戦敗退

立命館大学から大阪府警入り。知名度は高くないが、本大会直前の全国警察大会団体では神奈川県警との決勝で代表戦を任され勝利でチームを優勝に導いており、大阪府警の主力を張る選手である。30歳で初出場を果たした本大会は、2回戦で松﨑亮介(宮崎)の前に敗退した。

1回戦、岩切(背中)が森角智慈(長野)にメンを決める

──悔しい結果となってしまいました。

準備不足かなと思います。全日本選手権に向けた稽古があまりできていなかったので。そこが悔いの残るところですね。警察の全国大会を目標に1年間戦ってきて、良い結果で終われて、ホッとした、気持ちの抜けた部分があったのかなと思います。

──警察大会から全日本選手権の間が、うまく持って行くことができなかった?

稽古自体はできていたのですが、竹刀の規定が変わって、そこまで使用していた竹刀ではないものを使わなければいけなくなったときに、もっと前々から準備して慣れておくべきだったかなと。はじめて試合で使ってみて、自分の出すべき技が出せなかった感覚があって、試合中にあの技も出せない、この技も出せないと、自分で勝手にマイナスに追い込んでしまっている部分はありました。

──一つの狂いが結果に出てしまった。

そうですね。もっと前もって準備をしておかなければ、こういった舞台で勝つことはできないんだなと感じました。次出るときには、会場の雰囲気も分かりましたし、この舞台を想定した稽古を積んできたいと思います。

──初の全日本はいかがでしたか?

楽しかったです。緊張するのかなと思っていたのですが、楽しもうという気持ちできたので。まず1試合は勝ちたいと思っていて、緊張もほぐれてきたところであの結果になりました。剣道に絶対はありませんし、西村選手と対戦したいという思いもあったので、そこは悔しい気持ちがありますね。ただ、まだチャンスはあると思いますから、また来年、この舞台に帰ってこられるように頑張りたいと思います。

──世界大会では代表の最終選考まで残っていましたが、そこでの経験も力になっていますか?

それは感じますね。今日の結果を見ていても、代表のメンバーがほとんど上位に進んでいるので、私も、今回はダメだったですけど警察大会では結果を出すことができて、代表合宿に参加したメンバーは確実に力をつけてきていると感じます。私も負けないように、優勝を目指していきたいと思います。