平成最後の天皇杯は誰の手に|第66回全日本剣道選手権大会展望

昨年度は西村英久(熊本)が2度目の優勝を果たした
試合リポート
文=寺岡智之

9月中旬に韓国で行なわれた世界選手権の興奮も冷めやらぬなか、11月3日(祝)には剣道日本一を決める第66回全日本剣道選手権大会が日本武道館において開催される。来年4月30日をもって天皇陛下が御退位されるのにともない、平成最後の全日本選手権となる今大会。天皇杯は誰の手に渡るのか、すでに発表済みのトーナメントと照らし合わせながら展望してみたい。

西村の連覇、安藤の悲願成就なるか。それとも若手が勝ち上がるか

■実力で頭一つ抜けている日本代表勢

まず、今大会の中心となるのは、世界大会の激闘を制した日本代表の面々だろう。振り返れば、3年前の日本大会時は西村英久(熊本・熊本県警)と勝見洋介(神奈川・神奈川県警)、6年前のイタリア大会時は木和田大起(大阪・大阪府警)と内村良一(東京・警視庁)が決勝を争った。もちろん4名とも、当時の日本代表に名を連ねていたメンバーである。とくに今年は、世界大会の開催地が最大のライバルである韓国ということもあり、日本代表は3年間に渡る厳しい代表合宿を重ねて大会に臨んできていた。稽古の量・質ともに充分であり、日本代表メンバーから優勝者が出る確率は相当に高いと思われる。

日本代表メンバーで今大会に出場を決めているのは、上記の西村と勝見に加え、日本の大将を務めた安藤翔(北海道・北海道警)、団体戦で活躍を見せた前田康喜(大阪・大阪府警)と竹下洋平(大分・大分県警)、そして残念ながら試合への出場は叶わなかったが、昨年本大会で初出場3位入賞を決めた林田匡平(福井・教員[福井県立武道館])の6名。彼らが順調に勝ち上がれば、勝見と林田が2回戦、その勝者と安藤が準々決勝、前田と竹下も準々決勝で剣を交えることになる。西村は準決勝まで直接対決はないといった格好だ。

前回大会覇者であり、すでに本大会を2度制している西村は優勝候補の最右翼だが、世界大会での敗戦からどれだけ立ち直れているかがポイントとなるだろう。世界大会からほぼ日を開けずに開催された警察個人では優勝を飾ったものの、10月末に行なわれた警察団体ではまだ不調から抜け出せていない感があった。個人戦では無類の強さを誇るだけに心配は杞憂に終わる可能性が高いが、どうだろうか。

翻って、世界大会で個人団体世界一までのぼり詰めた安藤は充実一途と言える。本大会初出場は国士舘大4年時。以来、誰もがうらやむような正剣を武器にその存在感を示してきたが、いまだ頂点を極めるまでには至っていない。本大会では序盤での敗退も多く、決して油断のできないところだが、7回目の出場にして悲願の優勝成るか、最大のチャンスが訪れている。

竹下は第63回大会で3位入賞を果たし、警察個人2位の実績も持つ。どんな試合においても確実に力を発揮できる対応力が特長だが、世界大会での経験を糧に、壁を打ち破ることができるか。前田は今、乗りに乗っている選手の一人。抜群の攻撃力で序盤戦を圧倒することができれば、初入賞、そこも飛び越えて初優勝も見えてくる。

勝見と林田は序盤での対戦が確定的だが、勝見がベテランの意地を見せるのか、それとも林田が世界大会での悔しさをバネに勝見を打ち破るのか、目の離せない一戦となる。

■内村の圧倒的な存在感、将来性抜群の宮本

全日本選手権を語る上で外すことができないのが、最年長38歳、内村の存在である。これまで11度の出場で、優勝3回、2位4回、3位1回というハイアベレージを残し、その間、世界大会や警察大会でも頂点を極めている剣道界のレジェンド。近年は序盤敗退が続いていたが、前回大会でふたたび決勝まで進出し、改めてその存在感を示した。今年の警察個人も2位入賞と調整は順調な模様。今大会で4度目の優勝を飾ることができれば、宮崎正裕の6度に続く歴代2位の記録となる。

その内村の前に立ちはだかるのが、同じく最年長の橋本桂一(埼玉・伊田テクノス)である。実業団の旗手として長くトップ戦線で戦い続けており、本大会には5度目の出場となる。本年2月に開催された全日本選抜七段選手権で優勝を果たし、一躍時の人となった。いまだ進化を続ける両者は、2回戦での対戦が濃厚だ。

一昨年、大学生ながら並みいる強豪を倒して3位に入った宮本敬太(東京・警視庁)の存在も忘れてはならない。今春、大学を卒業して警視庁に奉職。未来の警視庁を担う選手であり、すでに警察団体ではレギュラーとしての地位を獲得している。1回戦の相手となった前田頌悟(奈良・奈良県警)は同世代。勝手知ったる相手だけにやりづらい部分は出てくると思われるが、警視庁の宮本としての初陣を派手に飾ってもらいたい。

■大阪から初出場を決めた岩切と村上に注目

大阪と言えば全国の予選のなかでも最激戦区と言われるが、今大会にはそこから初出場の選手が2名エントリー。岩切崇聡(大阪・大阪府警)と村上雷多(大阪・教員[大阪体育大])である。

岩切はここ数年で、大阪府警に欠かすことのできない選手に成長。直前に開催された警察団体では神奈川県警との決勝で代表戦を任され、勝見を下してチームを優勝に導いている。主戦場が警察関連の大会なため、一般的な知名度は低いが、日本代表の最終選考にも残っていた知る人ぞ知る逸材。身体能力も高く、鋭い面技は全出場選手のなかでもトップクラスだろう。順当に勝ち上がれば準々決勝で西村と対戦することになるが、会場がどよめくような場面が見られるかもしれない。

村上は桐蔭学園高から筑波大と進む、いわゆる剣道のエリート街道を歩んできた選手。高校時代も大学時代も、世代のトップ選手として一目置かれていた。大学院卒業後、大阪体育大で教鞭を執るようになったが、監督としてもすでに教え子を全国大会優勝に導いている。教員の身ながら、岩切と同じく日本代表選考に終盤まで残っており、実力は充分。大阪府予選では前田を下して切符を勝ち取っており、上位進出も不可能ではない。大一番は、内村と橋本の勝者と対戦することになるであろう3回戦か。教員勢としては林田とともに要注目である。

■國友と小谷が1回戦で激突、大学生の活躍にも期待

トーナメント1回戦で一番の注目は、両者とも決勝進出の経験がある國友鍊太朗(福岡・福岡県警)と小谷明德(千葉・千葉県警)の一戦か。一撃にかける剣道が持ち味の國友にとっては、小谷のようないわゆるうまいタイプの剣士は相当にやりにくいはず。このヤマには土田圭助(秋田・秋田県警)や西村健(兵庫・兵庫県警)といった地力あるベテランもおり、誰が勝ち上がるかはまったく予想がつかない。

竹ノ内佑也の優勝以降、大学生の本大会での活躍も目につくようになってきた。今大会には千田海(宮城・明治大4年)、山田凌平(北海道・明治大4年)、松﨑賢士郎(茨城・筑波大2年)の3名が出場している。どの選手も大学剣道界ではトップの実力を有しているが、そのなかでも一つ抜けた評価をしておかなければならないのが山田か。九州学院高3年時に日本代表へと選出され、大学2年時には全日本学生選手権で大学日本一の座に着いた。ここ一年は彼の力からすれば物足りない戦いが続いているが、北海道予選では北海道警の強豪を退けての出場権獲得。大器が花開く瞬間は、この全日本選手権かもしれない。

そのほか、初出場組のなかでは安藤や國友とともに国士舘大の大学日本一に貢献した村上泰彦(愛媛・愛媛県警)や、東京都予選で内村を破った村松洋輔(東京・皇宮警察)などの奮闘にも期待したいところだ。