【連載③】将来につながるのは〝捨てきった技〟|三重の生んだ全日本選手権者・木和田大起が観た地元インターハイ

加藤竜成
ノーマークで個人決勝まで進んだ加藤(八頭)は、まさにインターハイで人生が変わるであろう選手。写真は準決勝、棗田(水戸葵陵)にメンを決めた場面
インタビュー
インタビュー・文=岩元綾乃

男女全試合を通して、木和田さんがもっとも印象に残った試合をあげていただけますか?

男子個人戦の2回戦、水戸葵陵高校の岩部光選手(3年)と、九州学院の小川選手との一戦はとても印象的でした。

岩部選手が一本を先取しながらも、さらに小川選手の出がしらに面を打って二本勝ちを収めました。

男子個人2回戦岩部×小川戦

個人2回戦。岩部(水戸葵陵)が小川(九州学院)から二本目のメンを奪う

状況的には岩部選手が攻められた状態だったので、小川選手に旗があがってもおかしくない場面だったのですが、思い切った技で二本目を取りにいった岩部選手の気持ちの強さと自信を感じました。

岩部選手は筋肉質の体型をしていながら、思い切った面や突きなど飛距離のある技を打つことができるところが特長です。

身長はそこまで高くありませんが、構えもしっかりしていますし、剣道が大きく見えました。

将来性を感じるというか、きっとこれからもっと力をつけていくだろうなと思いました。

木和田さんも高校生当時はこの舞台で日本一を目指して戦っていたわけですが、当時と比べて高校剣道の変化のようなものは感じられましたか?

今回のインターハイを観戦していて感じたのは、警察官のトップ選手が打つような技を高校生の時点で打てるようになってきているということです。

私が高校生のときには打つことができなかったような技を、多くの選手が使っていました。

これは、動画投稿サイトやソーシャルメディアなど情報の供給源が増えたことで、たとえば髙鍋選手の素早い面や西村英久選手(熊本県警)の鋭い小手など、トップクラスの選手の技をいつでも何度でも見ることができるようになったのもひとつの要因だと思います。

彼らの技を真似て自身の剣道に取り入れる選手が増えたのではないでしょうか。

一方で、思い切った技を出せる選手が少なくなったなというのも正直な感想です。

昔の高校生は、相手を追い込んで面を打ったりと、今よりも攻撃的な戦い方をしていました。

ですが、ここ数年、高校剣道界で上位に進出してくる選手の多くは、防御を主体にした剣道がベースにあります。

もちろんどちらの剣道が良い、悪いということではありません。

私たちの頃よりも、剣道がさらに緻密になった結果ではないかなと感じています。

現代の高校剣道でトップを狙うためには、どのような剣道を目指していくべきだと思われますか?

剣道は昔から、遠間から大胆に面を打って〝美しく勝つ〟ことが理想とされてきました。

しかし、剣道の進化にともなってそこではなかなか勝負ができなくなってきた。

こちらが遠間から勝負を仕掛けたくてもすぐに間合を潰されてしまうような状況では、理想の剣道を貫くのは容易ではないでしょう。

ですが、大学生や社会人になっても剣道を続けていく上では、ここぞというときに出せる思い切った技はとても重要です。

全日本選手権でも、膠着した試合を決定づけるのは、捨て切った技が多いと思います。

ブラジルで行なわれた世界大会の決勝で木和田さんが奪った面も、まさに思い切った技でした。

相手に打たせないという鉄則がある近代剣道においても、勝負を左右するのはやはり捨て切った技です。

捨て切った技というのは、普段から稽古や試合で経験を積み重ねておかなければ打つことはできません。

団体戦であれば、決められた試合時間のどのタイミングで打つのがベストかという計算も必要です。

インターハイでも、全日本選手権でも、世界選手権でも、トップに上りつめる過程では、いつか必ず「目をつむってでもいかなければならない」という場面に遭遇します。

とくに団体戦においては、勝負のかかったところで思い切った技を出せるか出せないか。これは勝敗を決める大きなポイントになると思います。

木和田垂ネーム

木和田氏自身の三重高校時代の垂れネーム。実家に大切に保管されていたもの

最後に、インターハイ出場を目指す高校生たちへのアドバイスをお願いします。

インターハイに出場することが目標ではなく、日本一を目指して日々の稽古に取り組み、自分の最高の剣道を表現して欲しいと思います。

インターハイに出場するチャンスはたったの3回しかありません。

むしろ3回出場できるのはごく限られた選手のみです。3年生ではじめて出場できた選手にとっては、一生に一度の晴れ舞台となるわけです。

だからこそ、もっと自分の剣道をアピールして欲しい。

自分のなかでこれ以上ない技が試合で出せれば、たとえ試合に負けてしまったとしても、また全国を目指して頑張ろうと思えるでしょう。

自分の力を出し切れず、消化不良のまま3年間を終えて欲しくはないですね。

インターハイに出場できた選手たちも、自分の剣道がさまざまな人に見られている意識を持って戦って欲しいと思います。

インターハイでの戦いぶりは、大学や警察、実業団などのスカウトが目を凝らして観察しています。

この舞台を転機として〝人生が変わった〟選手は幾人もいます。勝ちにこだわることもそうですし、最後まで自分の剣道をしっかり貫き通す。

自分にとって最高のアピールができた先に、勝った負けたという結果があると思います。

私も世界大会に出場して活躍したことがターニングポイントとなって、人生が変わったと感じています。

大舞台で自分の100%を出し切ることは、その後に歩む道が180度変わることにつながります。

それを実感してきたからこそ伝えたいですね。インターハイで人生を変えて欲しい。

インターハイに出場する本当の意味は、そこにあるのではないかと思います。