7月28~29日、玉竜旗高校剣道大会(下)
先鋒に大津遼馬、次鋒に阿部壮己を配した玉竜旗大会6回戦、福翔(福岡)との試合では、それまで出番のなかった中堅榊原彬人と副将福岡錬も試合場に立つことになった。
大津が一本を決めきれず引き分けに終わったものの、阿部は相手の次鋒から副将までを破り、一気に大将斉藤大地を引きずり出す。
斉藤には出ゴテを奪われて敗れ、榊原が登場するが、榊原も斉藤に出ゴテを奪われ敗退。
しかし福岡は斉藤の出ばなにコテを決めると、二本目開始と同時にメンに跳び込んだ。
もちろん勝ち進むにつれ強い相手との対戦となるということはあるが、選手を代えたことでチームのバランスが少し変わったようにも感じられた。
だがそれは杞憂だった。7回戦は敬徳(佐賀)との対戦。春の全国選抜大会で3位入賞を果たした敬徳だが、インターハイ出場は逃している。ここでは大津が先鋒としての役割を果たし3人を抜く。
副将江口には微妙な相メンの場面で江口の一本となりさらにメンを奪われて敗退、阿部にバトンが渡った。阿部は副将江口慶に一本勝ちすると、大将小川夢希也にはメンを二本浴びせた。
選手は変わったが前2人での勝利パターンを復活させて準々決勝に進んだ。
ベスト8以上になるとさすがに日本一を狙える力のあるチームばかり、大将同士にもつれる試合が続出する。育英も松澤の出番となった。
福大大濠(福岡)との準々決勝は相手に先行を許した。先鋒同士の対戦で大津が中山寛大に敗れると、阿部は中山と引き分け、榊原は次鋒井上亮太郎を下したが、続く中堅濱地慶一に敗れすぐにまた先行される。
福岡は濱地と引き分け、松澤に2人が残された。松澤は冷静に戦い力を発揮する。副将池田虎ノ介との試合は延長2回、大将木島飛翼には延長1回の末、ともにメンを奪って逆転勝利を収めた。初登場の松澤がいきなり力を証明して見せた。
「リードされたときはどうなるかと思ったけど、あそこは松澤がよくやりました。いいところを打ちました」
と飯田監督。
■「胸を借りすぎた」九州学院に敗れる
準決勝はついに九州学院との対戦となった。どこかで破らなければならない相手である。この試合は膠着した展開となった。
「たぶんそうなるかなと。隣の島原さんと葵陵さんがガンガンやっていましたが、こちらはたぶんおとなしくなるだろうなと思っていました」
と飯田監督は言う。
先鋒大津×福田敏樹、次鋒阿部×岩間功樹、中堅榊原×池内暢斗と決まり技は生まれない。試合が動いたのは副将戦だった。小川大輝に福岡がコテを奪われる。
しかしリードを許したのは一瞬で、福岡が斜めの太刀筋でメンを打ち下ろし追いつくと、まだ時間は充分あったがそのまま引き分け。まったく五分の状態で大将戦を迎えた。
松澤と重黒木の大将戦は延長8回を重ねた(この大会は3分ごとに延長を区切る)。最後は松澤がメンに行ったところを重黒木に返しドウを奪われた。
3月の魁星旗大会では準決勝で九州学院を破り決勝で島原と対戦したが、ほぼ同じ状況だったが、その再現とはならなかった。
「九州学院と5試合ほどしたんですけど、ちょっと胸を借りに行き過ぎたかな……」
と試合が終わって飯田監督が言う。大会直前、23日の練習試合のことである。
「重黒木君のひきメンとか出頭メンとか本当に意識していて……松澤は長くなったので取りたい気持ちも出てきて勝負しに行ったので、それはいいと思う。紙一重だったと思うので、それはもう仕方ないこと……」
重黒木は準々決勝の福岡第一との試合でも相手の大将内村光伸との大将決戦となり、延長7回でコテを決めている。
確実に打てる機会が来るまで我慢に我慢を重ねて待ち、中断があった後の再開からコテを狙い打ちした。
「さすが九州学院の大将をしているだけあって、福岡第一の試合でももっと早く勝負してもいいと思うけど、もう絶対ここというところしか打っていかないですからね」
と飯田監督。
しかし、島原との決勝では延長3回で重黒木が(おそらく)決めにいったところを黒川雄大にさばかれメンを奪われた。
実力が伯仲し、互いに手の内を知っている同士だと「こうしたらやられる」ということを知っているから、とにかく我慢した方が勝ち、先に決めにいった方が負け、となりがちである。
育英の準決勝も、決勝もそうだった。先をかけることや攻めが大切とされる剣道において、そういうあり方は本来の姿ではないのかもしれない。
試合が長くなる傾向についても疑問はある。だが現実はそうなっている。現在の剣道の試合全体に共通する課題かもしれないとも思う。
「胸を借りすぎた」
という飯田監督の言葉がとても深いものに感じられた。
■インターハイに向けて足りないものがあるとすれば
2年連続3位という結果以上に、育英高校はインターハイに向けて大きな手応えがあったのではないだろうか。
とくに鎌浦、久住という本来は控えの2人が全国の強豪に通用する力を見せたこと。試合を戦うのは5人だが交代要員も2人いる。
今大会で、戦力になる選手の層の厚さを最も感じさせたのは育英だった。
サッカーのワールドカップでは代わって出る選手がしばしば試合を左右したし、試合に出ない選手も含めチームとして一体になることの大切さが強調されていたが、そんなチームの総合力、そして一体感が育英には感じられた。ほかのチームをずっと追っていたわけではないので、他校と比較しての話ではないのだが。
見事な活躍を見せた鎌浦が、インターハイに向けて
「チームとしてまとまってきていると思います」
と話す。試合についてはこんなふうに振り返った。
「大きな舞台で飯田先生が自分に先鋒というポジションを与えてくださったので、みんなに負担がかからないよう精一杯試合をしようと思いました。自分でもいい試合ができたと思いますが、甘いところがあったのでそこは直していかないといけないと思いました。(九州学院は)大将もすごい強いので、松澤で勝負したのですが……。優勝したかったですけどあそこで負けてしまったので、インターハイでは必ず日本一になりたいと思います」
今大会ベスト16のうちインターハイに出場するのは10校。ベスト16中4校を占めた福岡勢では東福岡が出場する。
インターハイでは九州学院と水戸葵陵が同じグループに入ったのをはじめ、新潟明訓と高千穂、佐野日大と鹿児島商業が同じグループに入るなど、リーグ戦から熾烈なつぶし合いとなることが予想される。
育英は大社(島根)、長野日大(長野)と同じグループとなった。
「大社さんもそうですし、長野日大さんも今日見ていたらみんなのびのびとやっています。こっちは負けてはいけないという思いで試合をしたらそこはどう転ぶかわかりません。あと10日間ですけど、各自がまた反省材料ができたと思うので……もうちょっと各自が責任を持って、与えられた4分+2分を毎試合、決勝まで行けば6試合きちっとやるつもりでいかないと。1回勝ってフッと気が抜ける選手が多いので、そこを毎試合しっかりやる精神力、集中力ですね」
8月5日にはインターハイ会場である三重県のサンアリーナ入で三重高校などと練習試合をするが、その日以外は学校でしっかりと調整をする予定だという。
「本当にラストになりました。今から量をたくさんやってもあかんから、質を高めていきます」