2018年9月1日(土)
東京都・東京武道館
レポート=寺岡智之 写真=安澤剛直
警視庁勢が3席を占めた4強の戦いと序盤戦の好勝負
■寺地四兄弟からついに優勝者現わる
1回戦 コ─ 吉田泰将(学剣連)
2回戦 メ─ 飯田茂裕(千葉)
準々決勝 メコ─ 岡本和明(警視庁)
準決勝 ド─ 岩佐英範(警視庁)
決勝 メ─ 寺地種寿(警視庁)
寺地賢二郎(警視庁)は一昨年3位に入賞。
これまで警察選手権や全日本選抜七段選手権で優勝しており、今大会に出場した選手のなかでもトップクラスの実績を誇る。
吉田泰将(学剣連)との緒戦をコテの一本勝ちで勝利すると、2回戦は飯田茂裕(千葉)と対戦。
両者とも無駄な動きはほとんどなく、試合場中央付近での攻め合いが続く。
中盤、寺地が下からの強い攻めで飯田の手元を浮かせると、そこから飯田が手元を戻したところにメンを打って一本、先制した。
その後も色のないメンで剣先が面金をとらえたりと飯田を脅かし、飯田の反撃をさばききって勝利を収めた。
準々決勝で対戦したのは全日本選手権で3位入賞の実績もある岡本和明(警視庁)。
手の内を知っている者同士、勝負は長引くかとも予想されたが、ここは寺地が岡本を完全に圧倒する。
開始1分ほどしたところで、コテからの攻めで岡本を引き出し、鋭くコテからメンに渡って一本。
そして二本目開始直後の初太刀、岡本の出がしらをコテに押さえてさらに一本を追加して二本勝ち、準決勝へと進出した。
準決勝、決勝はともに警視庁所属の相手との対戦となったが、寺地特有の柔らかい剣遣いとそこからのキレのある打突で延長までもつれた2試合を制し、優勝の栄冠を勝ち取った。
「三笠宮殿下がまだご健在のときに、『あなたたち四兄弟が優勝してください』とおっしゃっていただいたことが思い出されます。これからも出場させていただける以上は頑張っていきたいと思います」
■警視庁優勢のなか、重松が奮闘
1回戦 ド─ 関川忠誠(千葉)
2回戦 判─ 大島浩(警視庁)
準々決勝 ドメ─ 碓氷好一(世田谷)
準決勝 メ─ 重松公明(千葉)
決勝 ─メ 寺地賢二郎(警視庁)
(※半角文字は○がつくもの ○にメなど)
寺地種寿は本大会で二度、決勝の舞台に立っており、今大会の出場者を見渡しても最も親王杯に近い存在だった。
関川忠誠(千葉)との1回戦はドウの一本勝ち、大島浩(警視庁)との2回戦は延長でも決着つかず、判定で勝利をものにした。
準々決勝は碓氷好一(世田谷)と対戦。
初太刀にドウを決めて先行すると、時間中盤ほどにコテからメンの連続技で二本目を奪い、準決勝へとコマを進めた。
徐々に調子を上げていったようにみえた寺地は、重松公明(千葉)との準決勝、初太刀に豪快な諸手ヅキを放って会場をどよめかせる。
勝負を決めた技も力強い攻めからの捨てきったメンで、弟・賢二郎との対決には敗れたものの、観衆を魅了するに足りる寺地らしい剣道を見せてくれた。
1回戦 メメ─ 辻山和良(神奈川)
2回戦 メ─ 國吉奉成(皇宮)
準々決勝 コ─ 武藤一宏(警視庁)
準決勝 ─ド 寺地賢二郎(警視庁)
(※半角文字は○がつくもの ○にメなど)
第49回全日本選手権覇者であり、昨年の本大会を制している岩佐英範(警視庁)は、もちろん優勝の最右翼。辻山和良(神奈川)との緒戦も、一本目は辻山の技をすり上げてメン、二本目は辻山の〝未発の発〟をとらえてふたたびメンと、隙のない試合ぶりだった。
國吉奉成(皇宮)との2回戦を延長で制して勝ち上がった末の準々決勝は、武藤一宏(警視庁)との対戦。警視庁で指導に携わりながら剣を磨く者同士とあって、序盤からわずかな隙も許さない重く張り合う展開が続く。
ほとんど技の出ぬまま、最初に大きな動きがあったのは試合時間が4分を過ぎたころ。
武藤のコテを岩佐がメンに返すがこれは一本とはならなかった。
そして時間終了間際、今度は武藤のメンに対して岩佐がその技を紙一重で余してコテを打つ。
岩佐が全日本選手権の決勝で佐藤充伸に打った技を彷彿とさせる、鋭い一撃だった。
二本目開始直後に試合終了の合図となり、岩佐が昨年に続いて準決勝進出。
寺地(賢)との対戦では先輩に勝ちを譲るかたちとなったが、一刀にかける岩佐の精神の強さも垣間見える試合ぶりだった。
1回戦 メメ─ 浅野誠一郎(世田谷)
2回戦 メ─ 平尾泰(警視庁)
準々決勝 メ─ 松原治(神奈川)
準決勝 ─メ 寺地種寿(警視庁)
(※半角文字は○がつくもの ○にメなど)
ベスト4進出者のうち3名が警視庁所属。
残る一席に座ったのは千葉県警の重松公明(千葉)だった。
重松はこの日、強豪出そろうなかにあっても一際強い輝きを放っていた。
浅野誠一郎(世田谷)との1回戦では幸先の良い二本勝ちを収めると、2回戦で早くもヤマ場が訪れる。
対戦相手は平尾泰(警視庁)。
平尾は現在、男子日本代表のコーチを務めており、稽古は十二分に積んでいることが予想できた。
試合は延長に突入する接戦となったが、最後は重松のメンが平尾をとらえて勝負あり。
重松が難敵を降して準々決勝へと勝ち進んだ。
準々決勝は松原治(神奈川)と対戦。
動きがキレにキレている印象のあった重松は、開始から思い切った逆ドウなどをみせ、終始松原を追い込んでいた。
試合が決まったのは延長開始から1分半ほど経過したとき。端正な構えから重松が強く攻め入ると、松原が引き出されてコテを打つ。
その技をうまく余した重松が、ぽっかりと空いたメンに竹刀を振り下ろして一本とした。
寺地(種)との準決勝も幾度か惜しい技がみられた重松だったが、寺地のメンの前に屈し、決勝進出は成らなかった。
■小山は緒戦敗退、力をみせた武藤
一昨年優勝、昨年2位と2年連続で決勝まで勝ち上がっていた小山正洋(静岡)は、1回戦で藤原康宏(皇宮)と対戦。
5分の時間内は小山の攻めと出ばなのメンが目立ったが、決まり手なく延長に突入した。
時間が進むにつれ、徐々に藤原の技数も増えていく。延長終了間際になって藤原の竹刀を巻いてからのメンがあと一歩のところ。
これは判定が難しい試合になったと思われたが、審判3名ともに藤原を支持し、早くも小山がトーナメントから姿を消した。
試合序盤で目を惹く試合を展開していたのは武藤一宏(警視庁)。
緒戦の相手となった山口明生(山梨)は教員の強豪として名を馳せた選手だったが、山口がメンに出ようとした起こりをとらえてコテ、そして二本目も同じくメンにきたところを余してメンと圧倒し、二本勝ちで2回戦へとコマを進めた。
2回戦の井口清(埼玉)は警察選手権優勝、日本代表として世界大会で活躍した経験もある〝超〟のつく実力者。
この相手に対しても序盤に相メンを制して一本を先制する。
年齢で10歳若い井口は素軽い動きで二本、三本と連続して技を出していくが、武藤は巧みにさばきながら技を合わせていく。
試合時間も残り少なくなってきたころ、武藤が一歩詰めると井口の手元が浮いた。
そこを逃さず武藤がさらにメンを追加し、1回戦に続く二本勝ちで観衆を沸かせた。
そのほか、本大会で三度の優勝を誇る佐藤勝信(警視庁)は小山則夫(神奈川)との緒戦を判定で勝ち上がったものの、2回戦で岡本の前に敗戦。3位入賞経験のある石井猛(警視庁)も坂田秀晴(山梨)の前にコテを打たれて緒戦敗退となった。