イギリス・グラスゴーの地で日本代表チームはかつてない緊迫した場面を迎えていた
第12回世界剣道選手権大会団体戦決勝、韓国との対戦は代表戦までもつれ込んだ。
日本対韓国の決勝はこれで6回連続となり、とくに過去2回は大将の勝利で決着がつくという接戦だったが、この大会は同点で迎えた大将戦も引き分けとなり、代表戦に勝負が持ち込まれた。
もちろん決勝の代表戦は大会史上初めてである。
日本チームは先鋒から中堅までが大阪府警の選手。先鋒寺本将司が持ち前の勝負強さを発揮してひきドウを決めて一本勝ちを収め、幸先のいいスタートを切った。
この大会個人戦で優勝を果たした次鋒・佐藤博光は引き分け。
しかし中堅・平田裕亮がメンを奪われ同点とされてしまう。そして副将・井口清(埼玉県警)は引き分け、大将の栄花直輝(北海道警)につなぐ。
対するは世界選手権大会で無敗、日本選手を破ったこともあるキム・キョンナム。この大会ではコーチも務めていた。
大将戦はともに決定打なく引き分けとなる。
栄花とキムによる代表戦となった。
一方がスッと間を詰めれば相手がわずかに間を切るという慎重な戦い。
栄花の出ばなにキムがコテを放てば、栄花も機会をとらえてコテ、片手ヅキなどを放っていく。
徐々に機会をつかんでいったのだろう、試合中、何度か放っていたこの片手ヅキが決勝打となった。
観客が固唾を飲んで見守る中、試合時間が10分を経過したところで、栄花が渾身の片手ヅキを放つ。旗が三本翻った。
「自分を信じました。絶対に負けるわけがないと信じて戦っていました」
と試合後に栄花が語れば、小林英雄監督は、
「栄花を信じていました。こういう代表戦は一生に一度しかないでしょう」
とコメントしている。試合場から下がると選手、関係者は涙を流しそれぞれに抱き合って優勝を喜んだ。
次の世界選手権で日本は準決勝でアメリカに敗れる。
その後はまた王座に復帰しているが、決勝で大将が勝たなければならないという場面は迎えていない。