第28回全国高校選抜大会選評|底知れぬ九州学院の勝負強さ、完成度の高い東奥義塾

女子決勝、大将戦、齋藤(東奥義塾)がコテを先取する
試合リポート
第28回全国高等学校剣道選抜大会
2019年3月27日(水)〜28日(木)
愛知県・春日井市総合体育館

男子|九州学院(熊本)が7連覇達成、黄金時代は続く。

男子優勝・九州学院(熊本)
米田好太郎(2年)、岩間功樹(2年)、相馬武蔵(2年)、門間光児(2年)、山平昌太朗(2年)、荒木京介(1年)、鈴木龍哉(1年)。監督=米田敏郎

終わってみれば絶対王者の九州学院(熊本)が7連覇を達成した。インターハイでは一昨年に連覇が途切れたが昨夏に王座復帰。まだまだ黄金時代には続きがありそうだ。

とはいえ九州学院の試合は昨年同様に薄氷を踏む試合の連続だった。3回戦、準々決勝、準決勝と3試合連続の代表戦を相馬が制しての優勝であり、どこで敗れても不思議ではなかった。昨シーズンもメンバーに入って全国優勝に貢献した岩間は副将で大将相馬とともに不動。しかし前3人は昨年のメンバーだった門間(2年)、のほか、米田(2年)、山平(2年)、荒木(1年)、鈴木(1年)らが代わる代わる務めた。

1回戦では星城(愛知)、2回戦では中京学院中京(岐阜)に対し副将戦までで勝負を決め、ともに2─0で制した九州学院だったが、3回戦では日本航空(山梨)に対して5試合とも引き分けに終わる。ここは8分弱の代表戦で相馬がコテを決め事なきを得た。優勝候補の一角である福大大濠との準々決勝では次鋒山平の勝利でリードしたものの、大将の相馬が池田(虎)にメンを奪われ代表戦に持ち込まれる。大将同士の再戦は20分近い試合となったが、相馬がメンを決めた。

準決勝は昨夏のインターハイ決勝の再現となる育英(兵庫)との対戦、育英の中堅髙橋が一本勝ちを収めリードを許したまま大将戦となるが、相馬が阿部からコテを奪って代表戦に持ち込む。大将同士の代表戦は相馬が7分あまりで阿部からコテを奪った。

明豊との決勝、米田敏郎監督はそれまで中堅だった米田を次鋒に移し、中堅にこの大会初登場となる荒木を入れた。この采配が見事に的中。荒木がチーム唯一の勝利をあげ、1─0で明豊を下した。その一本も荒木のコテと加藤のメンに旗が2─1で割れる微妙な勝負だった。

3回戦以降、紙一重の勝負が続いた九州学院。しかし昨年の重黒木と同じように、大将の相馬が代表戦をことごとく制した。他の有力チームの大将と技術的に大きな差があるわけではないだろう。それでも勝ってしまうのは不思議ですらある。つねに日本一を目指すチームの大将としての覚悟、というような感覚的な表現でしか説明できない。

2位となった明豊(大分)は、ついにブレイクを果たしたといっていいだろう。別府大学の指導者である岩本貴光監督が付属高校である明豊を手がけるようになり、初年度である2016年に1年生のみでインターハイに出場、その経験豊富なメンバーが3年生になった昨年のインターハイは準々決勝で育英に敗れるという結果だったが、今大会は見事に決勝に駒を進めた。

1回戦は西大寺(岡山)に中堅加藤の勝利で1─0の辛勝。2回戦は次鋒山下、副将坂井の勝利で浜名(静岡)を下した。昨年インターハイ、全国選抜ともに3位入賞を果たした奈良大附属(奈良)との3回戦は注目されたが、先鋒北村が勝つと残る4試合は引き分ける。準々決勝は秋田商業(秋田)に4─0と快勝したが、水戸葵陵(茨城)との準決勝は0─0で代表戦となり、大将堤がここ一番で勝利をあげる働きを見せた。

3位は育英と水戸葵陵。ともに長い間つねに優勝を狙う存在となっているが、今大会は監督席に変化があった。育英は飯田良平監督が新年度から副教頭の立場になるため浦一樹監督が、水戸葵陵は大坂浩一郎監督が指揮をとっていた。ともに準決勝の代表戦で敗退したが、インターハイでも日本一を充分に狙える力を見せたといえよう。

ベスト8は福大大濠(福岡)、本庄第一(埼玉)、秋田商業(秋田)、小牛田農林(宮城)。東北勢が2校食い込んだ。本庄第一は2012年、九州学院の連覇が始まる前の年の優勝校である。ベスト16の顔ぶれでは国士舘大で活躍した若き高倉寛矢監督が率いる大分国際情報(大分)がとくに目を引いた。明豊とともに大分勢から目が離せない。

今大会直後の魁星旗で優勝した福岡第一(福岡)は九州選抜大会も制しており、本庄第一に敗れたとはいえ、玉竜旗でも活躍が予想されるし、福大大濠とのインターハイ福岡代表争いも注目だ。九州学院と代表戦に持ち込んだ日本航空(山梨)も力を見せた。

序盤戦は、まず1回戦で強豪同士の対戦であったが島原(長崎)が奈良大附属(奈良)に、高千穂(宮崎)が秋田商業(秋田)に、ともに代表戦の末敗れた。磐田東(静岡)も、久々の出場となった古豪長崎南山(長崎)に代表戦で敗退している。2回戦では、佐野日大(栃木)は関東勢同士の戦いで本庄第一に副将、大将が連敗し1─3で涙を呑んだ。

男子決勝、大将戦。堤(明豊)がひきメンなどで攻めるも、相馬(九州学院)は一本を許さずリードを守りきった

女子|1回戦の強豪対決を制した東奥義塾(青森)が駆け上る

女子優勝・東奥義塾(青森)
杉本咲妃(2年)、森永紗也香(2年)、丸山里桜(2年)、生方麻菜(2年)、齋藤とも(1年)、本間朱莉(1年)、肱岡星(1年)。監督=伊藤敏哉

昨年まで2連覇を果たした中村学園女子(福岡)が出場権を逃した今大会、1回戦で優勝候補同士、東奥義塾(青森)と守谷(茨城)の注目の対戦があった。ここを制した東奥義塾が一気に頂点に駆け上り、3年ぶり2回目の頂点に立った。

1回戦にはもったいなさすぎる対戦となった試合は、東奥義塾の先鋒本間が一本勝ちを果たすと、1─0のまま大将戦へ。1年生のときから大将をつとめる守谷の柿元に対し、昨夏のインターハイで1年生ながら個人3位となった齋藤が見事なメンを浴びせ、東奥義塾が勝ち進んだ。この一戦では東奥義塾の完成度の高さが感じられ、その後の勝ち上がりが予測できた。東海大相模(神奈川)に5─0、東海大菅生(東京)に4─0と強さを見せつけた東奥義塾は、準々決勝で樟南(鹿児島)と対戦。先鋒戦を落とすも、中堅杉本、副将森永の勝利で2─1と逆転勝利を収めた。終わってみればこの準々決勝が最も苦戦した試合となった。札幌日大(北海道)との準決勝は次鋒丸山から、中堅に回った齋藤、副将森永と3連勝で快勝し、決勝へ。

決勝の相手はこの大会では5年ぶりの決勝進出となる島原(長崎)だった。中堅までともに一本が奪えない展開だったが、東奥義塾は副将森永がメンを決め一本勝ちすると、大将の齋藤がコテ、さらにメンを決めた。東奥義塾は3年前に本大会初優勝を果たしながら、インターハイでは予選リーグ敗退、しかし個人戦の優勝、準優勝を独占するという劇的なシーズンを送った。今シーズンは悲願のインターハイ団体優勝にむけて、安定した力を感じさせる完成度の高いチームに仕上げてきた。チームとしての力は3年前以上かもしれない。

2位の島原は2回戦の大社(島根)との試合で1─0、3回戦の玉島との試合で2─0など接戦もあったが、やはり安定した力を見せた。須磨学園(兵庫)との準決勝は先鋒峯松が二本勝ちを収め、次鋒戦を一本負けで落とすも、大将の岩本が先に一本を奪い対する深見に返されるもリードを保って本数勝ちを収めた。

3位はその須磨学園と札幌日大。須磨学園は大将深見が勝負強さを充分に見せた。強豪対決となった久御山(京都)との初戦は0(0)─1(1)とリードされて迎えた大将戦で深見が二本を奪って逆転、桐蔭学園(神奈川)との3回戦では深見が二本勝ちで追いつき、代表戦も制した。島原との準決勝は深見が一本を返したが時間が足りなかった。札幌日大は1回戦から3回戦がすべて2─0、準々決勝は伏兵吉原(静岡)に4─0。取りこぼしのない安定した戦いぶりで準決勝に進んだ。

ベスト8は樟南(鹿児島)、阿蘇中央(熊本)、磐田西(静岡)という、つねにこのレベルまで勝ち進む各チームと、新鋭の吉原。白河(福島)、健大高崎(群馬)、奈良大附属(奈良)と、この大会常連のチームに競り勝った吉原は今大会最大の驚きだった。樟南は準々決勝で、優勝候補の一角である筑紫台(福岡)を破っている。長い伝統を持つ同校だが2年連続の3位入賞と、さらなる飛躍の機運が感じられた。

ベスト16に進んだ中では、レベルの高い福岡代表となった久留米商業が力を見せた。市立沼田(広島)、帝京第五(愛媛)と本大会の常連チームを下して2日目に進んでいる。本大会の直後に行なわれた魁星旗大会では、守谷が決勝で中村学園女子を破って優勝、両校がインターハイでは当然優勝争いにからんでくるだろう。また、東奥義塾を本大会ベスト16の筑紫台が破っており、中村学園女子は県大会も例年同様熾烈である。本大会では筑紫台に敗れた八代白百合(熊本)と、1回戦で敗れた西大寺(岡山)が魁星旗では3位入賞を果たしている。本大会で結果を残せなかった強豪たちにも夏は充分にチャンスがあるだろう。