【連載②】監督・選手が語る中村学園|中村学園女子高校レポート

中村学園女子高校:岩城規彦監督
岩城規彦監督
昭和44年生まれ。六段。福岡大学附属大濠高校、福岡大学卒。母校の福大大濠高校で1年、中村学園三陽中学で5年の勤務を経て、平成9年に中村学園女子高校に赴任した。
インタビュー

監督・選手が語る中村学園

■まず監督には勝敗についての考え方を中心に聞いてみた

もちろん勝っているのが一番いいとは思います。成功体験を持たせて次のステージに上げてやった方が、その子の自信にもつながります。

けれども私は勝ち負けだけにこだわっているわけではないんです。今は勝たせてもらっているけれど、負けても全然教えた意味がなくなるということではないと思っています。

勝てなかった子がまた次のステージで勝ちを求めていくというのも、その子の人生だと思うんです。

高校時代にあまりいい思いをしていない子が、大学へ進んで勝つことが結構あります。

例をあげれば、東日本大震災があった年の3年生は、震災で選抜がなくなり、夏は予選で負けてインターハイに行けなかったんですが、かなり力のあった子たちでした。その代の子たちがみんな剣道を続けてくれています。佐々木(奈緒)は筑波大で関東学生個人2位になり、遠山(絢子)は東海学生チャンピオン、信田(茉利奈)は九州学生チャンピオンになり、実業団などで今も続けています。

後で話を聞いたら高校時代は「やはり全国大会に出たかった」「やりきった感がなかった」と言っていました。でもそうやってその後頑張る子たちもいるんです。

だから勝って何を教えるか、負けて何を教えるかが大切だと思います。

勝った中にも反省があり、いい勝ち方と悪い勝ち方があるので、そのへんをきちんと伝えていかないと勝った子が間違ってしまう。

負けた子だってただ叱っただけではダメで、なぜ負けたのか、次どうするのかを教えてあげないと、次の勝ちにつながらないし、次のステップに行けないと思います。

剣道を教えながら、私が生徒たちに一番何を伝えられるかと考えると、人間性でしょう。剣道というものを通じて人をつくっていきたいと思っています。

もちろん剣道そのものも教えて伸ばしたい。両方のバランスがいい選手をつくりたいですよね。

女子は将来結婚して子どもを産むことになります。母親の子どもへの影響は大きいです。子どもが剣道をしたい、親も剣道をさせたいと思うようになってくれたら、私が教えたことは間違ってないということでしょう。

嫌いだったら子どもにさせないでしょうから。そうなってくれればもっと剣道も普及するでしょうし、そこまでが私の仕事かなと思っています。

■選手への質問

選手への質問項目は、

「1.中村学園に進学した動機」
「2.中村学園剣道部はこんなところ」
「3.選抜大会を振り返って今後の課題」

をたずねた。

妹尾舞香(3年)

妹尾舞香(3年)

福岡県出身・玄洋中(福岡)

1.中村学園に進学した動機

中学生のときは中学校の試合に集中していたので、(進路については)あまり考えたことがなかったんです。でも中3のときには中村学園に進学しようと思っていました。

今宿少年剣道部の先輩で2つ上に村田(桃子)先輩がおられて、村田先輩と一緒に日本一になりたいという気持ちがありました。稽古にこさせてもらって、厳しいしキツいけど、ここだったら日本一になれると思ったので入学しようと思いました。

2.中村学園剣道部はこんなところ

チームワークがすごくいいですし、剣道のときと、遊ぶときとかはしゃぐときのメリハリをつけるのがすごいです。

先生がしっかり厳しくご指導くださるので、それがあってこそなのですが、仲間と一緒に切磋琢磨して、自分自身もお互いにも高め合っていくことができているから勝てているのかなと思います。

3.選抜大会を振り返って今後の課題

去年は先輩方に引っ張ってもらって勝たせていただくことができたのですが、今年は自分が一番上でキャプテンとしてチームを引っ張っていかなければいけないという責任感もあったので、そのプレッシャーに負けないよう、自分に勝って、一試合一試合目の前の相手だけに集中してやることができたと思います。

去年も決勝で自分が取って勝たせていただいたのですごく嬉しかったんですけれど、今年は自分がキャプテンだというプレッシャーもたぶんあって、嬉しいと思うと同時にホッとする気持ちが強かったです。

ジャパンの合宿に入れていただいて、上を目指している意識の高い方々の中で稽古をさせていただき、すごく貴重な経験をさせていただいているのは、本当にありがたいことだと思います。

小さい頃からずっと(今宿少年剣道部の)山内(正幸)先生に教わってきたので、それを土台にしてやっていますが、父も剣道をしているので(高校に入ってから)父に巻き技や払い技を教えてもらって、稽古や試合で使えるようになったので、そういう面でも成長できたと思います。

諸岡温子(3年)

諸岡温子(3年)

福岡県出身・九州学院中(熊本)

1.中村学園に進学した動機

小学生のときにテレビで見たりして知っていて、カッコいいなとは思っていました。

中村学園に練習に来たら先輩方がキビキビされていたので、選手としても高校生としても一流になれると思いました。ここで、団体で日本一になりたくて来ました。

2.中村学園剣道部はこんなところ

挨拶が、どこの高校よりもハキハキと大きな声で言えていると思います。

3.選抜大会を振り返って今後の課題

チームで戦うことの大切さを感じさせられました。去年は魁星旗や玉竜旗には出させていただきましたが、初めての全国選抜で緊張しました。

緊張して怖がって、あまり自分の剣道ができなかったので、魁星旗では絶対自分で決めてやるっていう気持ちで戦って、思い切って戦うことができました(決勝で二本勝ちを収め逆転して大将妹尾につないだ)。

津野愛梨(2年)

津野愛梨(2年)

熊本県出身・菊地南中(熊本)

1.中村学園に進学した動機

先輩方のDVDとかを見て、中村学園の剣道にとても憧れていました。私も中村学園に行って先輩方のように強くなって日本一になりたいと思いました。

岩城先生は剣道面だけではなく学校生活など人間的にも成長させてくださる先生なので、岩城先生についていけば人間的にも一流になれるし、剣道でも絶対日本一になれると思いました。

3.選抜大会を振り返って今後の課題

チームワークが一番大事だということが分かって、一人ひとり試合での仕事を自覚して責任を持ってやり遂げることができたから優勝できたと思っています。

個人的にあまり力がないほうだけど、チームのためにどれだけ戦うことができるかということを考えて試合をしました。先を取るスピードをもっと早くして、小柄なのでもっと足を使って相手を圧倒する剣道をしていけたらと思っています。

大嶋友莉亜(2年)

大嶋友莉亜(2年)

愛知県出身・志段味中(愛知)

1.中村学園に進学した動機

Youtubeなどで先輩方が出ている玉竜旗大会を見て、とてもカッコいいなと思って、実際に来てみてここしかないと思いました。

先輩方が目配り気配りとか挨拶がしっかりできていて、自分も人間的にも成長したいなと思ってこの学校に来ました。

3.選抜大会を振り返って今後の課題
次鋒としての仕事をしっかり果たすためにはチームを信じないといけないと思って、後ろにいる先輩方やみんなを信じて戦いました。

個人的には決勝戦で一本を取られてしまい、もしかしたらその一本で負けるかもしれないところを先輩方がひっくり返してくれたので、今度は自分が恩返ししなければいけないと強く思いました。

気持ちの面でまだ自信がついていないところがあるので、もっと練習をたくさんして自信をつけて、本番の試合で練習より力が出せるようにしていきたいです。

奥谷茉子(2年)

奥谷茉子(2年)

大分県出身・日田東部中(大分)

1.中村学園に進学した動機

小さい頃から知っていた妹尾舞香先輩と同じチームで日本一になりたかったからです。

2.中村学園剣道部はこんなところ

挨拶がしっかりしていて、学校生活もしっかりとしていて剣道と両立できるところがいいところです。

1年ここで稽古をして強くなったという実感はあります。中村学園は足を使うというのは最初から知っていましたが、やっぱり足を使うのが特長だと思います。

3.選抜大会を振り返って今後の課題

自分は先鋒で切り込み隊長というポジションだったので、後ろの4人が勢いづくように、しっかりと自分の剣道をして勢いのある試合をすることができました。

普段やっていたことがそのまま出せたと思います。チームとして、一人ひとりが自分のポジションに責任を持ってその仕事がやれたところが良かったです。

選手イチ押し「私を強くした稽古」

「自分を強くした稽古」について、全国選抜大会に出場した選手5人に聞いた結果、「縦の4人組」と「7人組」に集約されたので、この二つの稽古法を紹介する。

■縦の4人組


間隔をあけて3人の元立ちが立つ

打ち手は1人目に対し面

2人目に対し小手面を打って進む

3人目とは一本勝負をする

選手の意見

「最後の一本勝負では本番と同じ気持ちで。入りを意識して、一番緊張感のある稽古です」(大嶋選手)

「入り方を早くする稽古です。自分は小柄なので、しっかり足を使って、人よりも動くことを意識しています」(大嶋選手)

「自分は足を使ってスピードを生かす剣道なので、入りの部分やそこから打突までの流れとか、流れの中で一本を取る方法を身につけられると思います」(諸岡選手)

岩城監督の選手に対する解説

両方が間合からひいた状態から攻める練習。これは試合の中で必ずある状況だ。

ここでどういうふうな戦い方をするかがポイント。面と小手面は、剣先同士がタッチする瞬間からどこまで入ったところで自分が打てるのか。まずそれを知ることが大切。

これは個人差がある。試合や稽古で空振りをするのは、それを分かっていないからだ。その距離を知るという意味でこの練習は必要。

そして剣先がタッチした瞬間から打てるところまで入るスピードが重要。相手が思わず下がるか、よけるぐらいの勢いで入る。小手面は、もし相手が小手に合わせて来たら小手、面に来たら面で勝つ。試合でもよくある技の選択だ。

3人目は自分が入るのが遅れたときの練習になる。相手が先に入ってきたときに、相手の技を一回殺してそこから攻めるか、もしくは応じて決めるのか。

そこは先に入る相手もチャンスだが、実は自分にとってもチャンス。だからチャンスとチャンスの勝負だ

■7人組


計7人が縦に並ぶ

相手の面に対し応じ技

振り返って後ろの選手に対し応じ技

手前の選手は打ち終わって移動

さらに振り返って続け、連続で6人に対し応じ技を放つ。出小手、出ばな面、返し胴などの技を出していた。

選手の意見

「応じ技の練習です。これでいろいろな応じ技ができるようになりました」(奥谷選手)

「切り替えだとかつくりだとか、一本一本しっかり打突して決めきることなど、一つのメニューの中にいろいろな要素が詰まっています」(妹尾選手)

岩城監督の選手に対する解説

完璧を求めたら、この稽古で6本打ったら6本が有効打突にならなくてはいけない。

6分の6だったら自分の得意技になる。6分の5だったら、試合ではあまり出さなくていいけどたまには出していいというレベル。

6分の1、6分の2だったら試合ではとてもじゃないけど出さない方がいい。たまに6分の0の人もいる。ではなぜ打てないかをフィードバックし、すぐ解決策を見つける必要がある。

『一生懸命打っています。頑張ってます。けど一本になりません』では練習する意味がない。

毎日稽古をするのだから、今日は6分の4だったら明日は6分の5にしよう

取材=編集部 撮影=窪田正仁 取材日=平成30年4月10日

【連載①】剣道でも人間としても一流を目指す | 中村学園女子高校レポート

2018.04.26