試合だけじゃものたりない。 参加者全員が剣道の魅力に包まれる大会を目指して|第1回少龍旗全日本少年剣道錬成大会

試合リポート
取材・撮影=寺岡智之

明治維新150周年記念
第1回少龍旗全日本少年剣道錬成大会

「剣道プロジェクト」の主催する「第1回少龍旗全日本少年剣道錬成大会」が、平成30年11月18日(日)に高知県の高知県立青少年センターにおいて開催された。「剣道プロジェクト」とは、石塚一輝氏が代表を務める〝剣道の価値を高める〟ことを目的として活動している団体。本大会もただ試合で勝敗を求めるだけでなく、会場に足を運んだすべての人に大会を楽しんでもらいたいと、さまざまな趣向が凝らされていた。会場のそこかしこが笑顔にあふれた一日を追った──。

■剣道の魅力を伝えるため、趣向を凝らした剣道大会が誕生

平成30年は明治維新から150年の節目の年にあたる。その明治維新と切っても切れない縁にあるのが、幕末の志士として有名な坂本龍馬。龍馬は時代の先駆者として数々の功績をあげたが、その生誕地でもある高知県において、こちらも次代を見据えた剣道大会が開催された。

「少龍旗」と冠された同大会は、「剣道プロジェクト」という団体が主催。「剣道プロジェクト」とは代表の石塚一輝氏が平成28年に立ち上げた、〝剣道の価値を高める〟ことを目的とした取り組みである。

少子化による少年少女の剣道ばなれが叫ばれる昨今、剣道が持つ魅力を世に発信していくことは剣道ばなれに歯止めをかける意味でも急務となっている。そこで石塚氏率いる「剣道プロジェクト」は、日本各地で剣道に触れたことのない人も参加できるような剣道イベントを開催、そのほか、外国人剣士の受け入れや、剣道部の学生に向けた就職支援のサポート、剣道と英語を同時に学ぶことのできるインターナショナル剣道スクールの開校など、さまざまな取り組みにチャレンジしてきた。今回の少年大会開催もその一環であり、大会開催の第一義としたのは、参加した少年少女剣士だけでなく、保護者、観客など大会に関わったすべての人に剣道の魅力を感じてもらうことである。

小学校低学年の部に121チーム、高学年の部に151チームがエントリー

「剣道プロジェクト」を主宰し、今大会の大会会長を務めた石塚一輝氏

■勝ち抜きルールの採用とイベントの開催で多くの道場に門戸を開いた

本大会が種々ある少年大会との違いとして打ち出したのは大きく二つの点。一つは少年大会としては珍しい3人制の勝ち抜き戦ということ、そしてもう一つは大会の昼休み時間を利用した書道イベントである。

3人制勝ち抜き戦を採用した理由は、少年少女剣士の減少によって、5人チームを組むことのできない道場が増えていることが大きい。石塚氏は大会を開くにあたって、高知県剣道連盟を中心とした実際に大会運営を行なっている団体からさまざまな情報を収集。そこでどうしたら数多くの道場に足を運んでもらえるかを考え、3人制勝ち抜き戦の導入を決めた。3人制ならば出場可能という道場も多く、また、勝ち抜き戦ということで多くの道場に優勝のチャンスがある。実際に、今まで同レベルの大会に出場していなかった全国各地の道場からも参加の申し込みがあり、今大会には高知県という決して交通の便の良いとは言えない場所柄であったにも関わらず、関東や九州からも参加したいという声が上がった。

そして書道イベントに関しては、大会に出場している剣士だけでなく、応援にきた保護者や関係者にも大会を楽しんでもらいたいという想いから企画を立案。剣道プロジェクトの取り組みのなかで面識を得た〝超一流の勝負文字伝道師〟こと書道家の安田舞氏に協力を仰ぎ、各種メディアで剣道の普及に尽力されているタレントの渡辺正行氏と全日本選手権者で範士八段の石塚美文氏を招いて、これまでの剣道大会にはない思い出づくりの場を提供した。

「〝剣道をしていない人でも見にこられる大会〟というのを一つのテーマとして大会づくりをしてきました。イベントを組み込んだり渡辺正行さんにご協力いただいたりしたのも、剣道を知らない人が足を運ぶきっかけになってくれればと考えてのことです。来場したすべての方々に、この大会が思い出として残ってくれればうれしいですね」(石塚氏)

今大会のメインでもある書道イベント。ゲストとともに「夢」の一文字を書き上げる

■特別ゲストの登場でイベントも大盛況。
剣道の楽しさが凝縮された一日に

大会は早朝9時30分より、宮本理幸大会委員長の開会宣言により幕を開けた。会場となった高知県立青少年センターの体育館には、全国各地から集まった少年少女剣士がところ狭しと顔をそろえ、これからはじまる大会への期待感に胸を膨らませているようだった。

開会式では、ゲストとして招かれたタレントの渡辺正行氏が「おはようございます、福山雅治です」とボケをかましてひと笑い。剣道の選手がゲストとして来場する大会は多いが、タレントが防具を身につけて挨拶する大会は全国を見渡してもほとんどないだろう。その後、高知至誠館の明神颯爽真選手が凜とした姿で選手宣誓を行ない、開会式を終えて試合へと移った。

試合は小学生個人戦の部、小学生低学年団体戦の部、小学生高学年団体戦の部の3部門。どの部門もベスト8までは2分一本勝負となっており、午前中は個人戦が行なわれた。一本勝負ということもあり、どの試合会場も小学生とは思えない、熱気あふれる戦いが繰り広げられていた。

個人戦が一段落したのちは、多くの参加者が待ちに待っていたイベントの時間。今回行なわれた書道イベントは、抽選で選ばれた9チームがそれぞれ安田舞、渡辺正行、石塚美文チームに分かれ、大きな筆を使用して「夢」の一文字を書き上げていくというもの。抽選で選ばれた瞬間のよろこびはもちろん、袴の裾をたくし上げてゲストとともに書道に興じる子供たちの顔は、一様に笑みをたたえていた。顔を墨で汚しながら一所懸命に取り組む子供たちの姿を見守る保護者の顔も同様である。

イベントで時間が押したため、残念なことに本来の予定からは大幅な時間削減となったものの、ゲストとの自由稽古もイベント後に行なわれた。少年少女剣士にとっては、芸能人や範士八段に稽古をお願いするまたとないチャンス。渡辺、石塚両氏の前には長蛇の列ができ、力いっぱいに面を打ち込んでいく姿が印象的だった。

午後は団体戦が行なわれたが、こちらは勝ち抜き戦の醍醐味とも言える逆転劇が至るところで見られた。上位の試合はレベルも上がり、さすが全国大会といった様相。小学生低学年の部は安浦一心館A(広島)、高学年の部は養徳館道場A(岡山)、個人戦は福岡十生館の中尾誠選手が優勝を決め、大会を通じた最優秀選手には黒瀬剣道教室の山下大悟選手が選出された。
主催者にとっても参加者にとっても初物尽くしとなった今大会だったが、会場を後にする参加者たちの充実した顔が、大会の成功を物語っていたと言えるだろう。

「反省点は多々ありますが、良い意味で先の見える大会になったと思います。大会は我々『剣道プロジェクト』の力だけで開催することはできません。地元の方々の力を借りて、地域の活性化とともにもっと剣道の魅力を伝えられる大会になるように、第2回大会に向けて私たちも進んでいきたいと思います」(石塚氏)

第2回大会は2019年10月に、同じく高知県で開催される予定である。

今大会に特別ゲストとして招聘された石塚美文範士八段と、タレントの渡辺正行氏、書道家の安田舞氏

タレントの渡辺正行氏が、開会式から会場に笑いを起こした

芸能人と剣を交える滅多にないチャンスとなった自由稽古。少年少女剣士たちにとっては思い出の1ページとなった

小学生高学年団体戦決勝は大将勝負となり、養徳館道場Aが勝利を手にした

〈大会結果〉
【小学生低学年団体戦の部】
優勝・安浦一心館A(広島)
2位・光龍館A(香川)
3位・福岡十生館(福岡)
3位・高知致道館剣道教室A(高知)
敢闘賞(ベスト8)
聖和剣道友の会A(大阪)、新居浜剣道会A(愛媛)、野市少剣A(高知)、平田少年剣道教室(島根)
【小学生高学年団体戦の部】
優勝・養徳館道場A(岡山)
2位・坂出市剣連少年部A(香川)
3位・福岡十生館A(福岡)
3位・福田道場(岡山)
敢闘賞(ベスト8)
光龍館A(香川)、聖和剣道友の会A(大阪)、新居浜剣道会A(愛媛)、黒瀬剣道教室A(広島)
【小学生個人戦の部】
優勝・中尾誠(福岡十生館)
2位・原田恵杜(心成館もみじ道場)
3位・折野大輝(大津少年剣道教室)
3位・前嶋佑二郎(浅羽少年剣道教室)
敢闘賞(ベスト8)
山下大悟(黒瀬剣道教室)、江野脇颯冴(黒瀬剣道教室)、松原伊咲(福島勇武館)、笠尾祐葵(養徳館道場)
【最優秀選手】
山下大悟(黒瀬剣道教室)

初の大会開催に奔走した「剣道プロジェクト」の面々