第7回横浜七段戦、初出場の中野貴裕(京都)、今も完治しない大ケガとも戦いながら優勝

試合リポート
第7回全日本選抜剣道七段選手権大会
2020年2月2日(日)
神奈川県横浜市・神奈川県立武道館

第7回目を迎えた全日本選抜七段選手権大会(横浜七段戦)が、2月2日(日)に開催された。決勝は中野貴裕(京都・京都府警)と岩下智久(千葉・千葉県警)の法政大学OB同士の対戦となり、中野がメンを決めて初出場で優勝を果たした。

決勝、一瞬の隙をとらえて中野(京都)がメンに跳び込み(写真)、優勝を決めた

出場選手18名はまず4〜5人のリーグに分かれて総当たり戦を行ない、各リーグ上位2名が準々決勝に進んだ。昨年を含め3度の優勝経験がある髙鍋進(神奈川・神奈川県警)、一昨年優勝の橋本桂一(埼玉・伊田テクノス)らがリーグ戦で姿を消した。

髙鍋は同じ第1回大会優勝者で同じ神奈川県警の北条忠臣と同じAリーグに入り、両者の対戦は引き分け。松脇伸介(東京・警視庁)に敗れ、東永幸浩(埼玉・埼玉県警)と引き分けた高鍋は、最終戦で古澤伸晃(東京・日本体育大学教員)に二本勝ちを果たすも3位となった。北条は古澤に勝ち、東永、松脇と引き分け。このグループでは2勝2分の松脇が1位、1勝3分の北条が2位、1勝1敗1分の髙鍋が3位という結果だった。

今大会は初めて韓国の選手が出場した。ともに世界選手権大会で活躍した張成洪(43歳)と李康鎬(41歳)の2名である。Dリーグに入った張は初戦で内村良一(東京・警視庁)と引き分けるも、橋本と米屋勇一(埼玉・埼玉県警)に破れリーグ戦で敗退。張を破った橋本だったが、米屋に敗れ内村とは引き分け。2引き分けで最終戦を迎えた昨年2位の内村は、最終戦でここまで2勝の米屋に勝たなければリーグ戦敗退の危機だったが、渾身のツキを奪って勝ち残った。

リーグ戦最終戦、内村(東京)が米屋(埼玉)にツキを決める。この勝利で内村がトーナメントに滑り込んだ

李が入ったのはBリーグ。李は木和田大起(大阪・大阪府警)に勝ち、朝比奈一生(神奈川・希望ヶ丘高校教員)、坂本崇(静岡・浜松湖北高校教員)と引き分けて、2位で準々決勝進出を果たした。木和田、坂本に勝って2勝1分とした朝比奈が1位で準々決勝に進んだ。

Cリーグで好調ぶりを見せていたのは岩下。権瓶功泰(東京・警視庁)と若生大輔(北海道・北海道警)に勝ち、中野、古川耕輔(大阪・大阪府警察学校)と引き分けて1位でリーグを抜けた。中野は権瓶に敗れ、古川、岩下と引き分けて勝利のないまま最終戦を迎えたが、そこで若生に二本勝ちを修め、2位に滑り込んで準々決勝進出を果たした。

リーグ戦、自身最後の試合で中野(京都)は若生(北海道)から逆ドウを奪う。このあとメンを決め、準々決勝へなんとか駒を進めた

準々決勝では内村が松脇にコテを二本決めて勝利。中野は朝比奈から早々にメンとコテを奪った。リーグ戦最終戦で準々決勝進出を決めた二人が、一気に調子を上げてきた。李と岩下の一戦は延長にもつれたが、岩下が逆ドウを奪って韓国の強豪を下す。米屋は北条からメンを奪ってベスト4進出を決めた。

準々決勝、岩下(千葉)が李(韓国)のドウを抜いて勝利

準々決勝、米屋(埼玉)が北条(神奈川)にメンを決める

徐々に調子をあげ優勝の予感も感じさせた内村と、同じように尻上がりに調子をあげてきた中野が対戦。内村がコテに来たところをメンにさばいて一本を奪った中野が、すぐにコテを奪って二本勝ちを果たす。接戦が予想されたがここは中野が完勝した。もう1試合の準決勝は、米屋が左足のふくらはぎあたりを痛めるアクシデントがあり、徐々に動きがキツそうになる。延長に入りドクターの治療を受けた米屋だったが、岩下がツキを放つとこらえきれずそのまま転倒、岩下の一本となった。

準決勝、内村(東京)のコテを受けて、中野(京都)がメンを決め先制

準決勝、岩下(千葉)が米屋(埼玉)に対し、諸手ヅキを決め、勝利を修めた

初出場の中野と、3回目の出場となった岩下の決勝、法政大学では岩下が中野の1学年上である。序盤から岩下が積極的に技をしかけ、中野は守りを固めチャンスをうかがう展開が続いた。だが延長に入り、攻めた岩下がの動きが一瞬止まったところに中野がまっすぐメンに跳び込む。これが決勝の一本となった。

2012年、イタリアで行なわれた世界選手権大会のメンバーに選ばれていた中野だが、その直前に大ケガをしてしまう。左ハムストリング総腱抜け落ち断裂という症状で、8時間に及ぶ手術を要し、二度と剣道ができないかもしれないと言われた。その後復活して全日本選手権にも出場したが、実はその影響が今も残っているのだという。今もリハビリを続け、つねに左足をケアしながら剣道を続けており、一生付き合っていかなければならない故障なのだそうだ。

「まだ痛みも続いているんです。左足のハムストリングスは女子高生ぐらいの筋力しかないですね」

と中野本人が言う。決勝も足をケアしながら臨んだことが試合展開を左右した。

「(決勝は)試合数も多くなったし、もう一度左足を痛めてしまったら剣道ができなくなるかもしれないので、最初からは行かず、チャンスをうかがっていました。

だが決勝では、岩下が攻めても中野は素早い足さばきで下がって打たせないという場面が、何度も何度もあった。その足さばきの鋭さは全選手の中でも出色であり、まだ足がそんな状態であるとは想像もできなかった。中野にとっては、そうそうたる相手との戦いに加え、ケガとの戦いにも勝った、二倍うれしい勝利だったといえよう。

「この大会は出るだけで素晴らしい大会なので、優勝するとは本当に思っていなかったし、世界大会で一緒に戦ったチームメイトもいたので、一戦一戦嬉しい気持ちで、恩返しの気持ちでした。練習環境もそんなに整っていませんけれども、でも剣道が好きで、やめなかったこと。で剣道がもうできないというところでも続けた結果かなと思います。私の他にも大ケガをした人はいると思いますので、そんな人たちに希望を与えられればと思って戦いました」

優勝・中野貴裕
京都府警察舞鶴警察署勤務。京都市出身、日吉ヶ丘高校、法政大学を経て京都府警察へ。全日本選手権ベスト8,世界選手権出場、全国警察大会団体3位・個人2位などの戦績がある。本大会は初出場。39歳。

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