2018年9月1日(土)
東京都・東京武道館
レポート=寺岡智之
写真=安澤剛直
過去の成績で圧倒する警視庁勢、今年も王座を守る
首都圏を中心とした強豪八段32名が集い、寛仁親王杯をかけて争われる本大会。
午前中は同会場で全日本選手権への出場を目指した熾烈な予選会が開催されており、その興奮冷めやらぬなか、八段剣士による円熟の試合が展開された。
大会の歴史を振り返ってみれば、17回中13度の優勝と圧倒的な力を見せているのが警視庁勢。昨年は全日本選手権での優勝経験もある岩佐英範が初出場で賜杯を手にした。
今大会、決勝まで勝ち上がってきたのは警視庁に所属する寺地種寿と寺地賢二郎の二人。
両者は実の兄弟であり、八段戦という大舞台の決勝戦で兄弟対決が実現した(二人の弟にあたる寺地四幸も今大会に出場)。
兄の種寿は関川忠誠(千葉)との緒戦を一本勝ちで制すると、続く大島浩(警視庁)との2回戦は判定の末の勝利。
八段同士の対戦とあって勝負はほとんどが紙一重と言えたが、準々決勝では碓氷好一(世田谷)を相手にドウ、メンと鮮やかに二本を奪って準決勝へとコマを進めた。
準決勝はこの日素晴らしい動きをみせていた重松公明(千葉)と対戦。延長までもつれた好勝負は、寺地の真骨頂とも言える捨てきった豪快なメンで結末を迎えた。
対する弟・賢二郎の勝ち上がりは、緒戦で吉田泰将(学剣連)にコテ、2回戦で飯田茂裕(千葉)にメンと時間内に勝負を決める。
同じ警視庁の岡本和明との対戦となった準々決勝は、5歳下の岡本を寄せつけず、メンとコテを序盤で奪い圧倒。前回大会の覇者である岩佐との準決勝は、延長戦、岩佐がメンに跳び込んできたところをドウに返して一本を奪い、自身初となる決勝の舞台への切符を勝ち取った。
兄と弟、果たして軍配はどちらに上がるのか、観衆も固唾をのんで見守った決勝戦。警視庁でたゆまず剣を磨く者同士、序盤は一分の隙もなく、細かい剣先での会話が続く。
一合あっては探り合いという展開が繰り返されて時間内は終了、延長戦へと突入した。
そして延長開始直後の初太刀、賢二郎が色なくスッとメンに伸びると、その剣先が種寿をとらえる。
わずかに浅かったようにも感じられたが、この技に赤旗が三本。兄弟対決は弟・賢二郎の勝利に終わり、輝かしい寛仁親王杯を手中に収めた。
■優勝・寺地賢二郎八段インタビュー
──優勝のお気持ちを聞かせてください
無欲の勝利といった感じでしょうか。これまでは目標を持って試合に臨んできたのですが、今大会は一試合一試合、無心で戦うことだけを心がけました。ここ数年、優勝はあまり意識をしていなかったので、優勝が転がり込んできたような不思議な気持ちです。
──決勝戦は兄である種寿八段との兄弟対決となりました
兄との公式戦での対戦は、25年ほど前の警察選手権の準決勝以来だと思います。決勝戦へ臨むにあたっては、やはり兄弟ですから、兄に対して心をあずけるというか、胸を借りる気持ちでした。この気持ちは幼少のころから変わりません。
──今大会に向けてはどのような調整をされてきたのでしょうか
これまで幾度も出場させていただいていますが、どの年も大会に向けた準備というのはあまり変わりません。ただ、自分のなかで変化があったとすれば、今までよりも無駄打ちが少なくなり、それが良い方向に結果として出たのではないかと思います。
──優勝を決めたメンについては
心をあずけて、胸を借りる気持ちで打ちました。紙一重だったと思います。