平成30年4月15日(日)
名古屋市中村スポーツセンター
捨て切ったメンで全日本でも八段の頂点に
■戦評
初出場が13名と大幅に選手が入れ替わった本大会。
優勝者は初出場選手の中から生まれた。東京で行なわれる寬仁親王杯剣道八段選抜大会ではすでに3度の優勝を果たしている恩田が、この全日本でも王座に着いた。
1回戦では佐伯浩美(宮崎)にメン二本を決め、2回戦では平野誠司(徳島)にメンの一本勝ちを収める。
序盤から迷いなく跳び込む捨て切ったメンが冴えていた。
昨年まで本大会2連覇を果たしている宮崎正裕(神奈川)との準々決勝は注目された。
一本目の相メンは際どい勝負だったが恩田に軍配。すると宮崎も勝負師の魂がこもったようなメンを返す。勝負となり再び相メン。これに恩田が打ち勝った。
「あそこで捨てるしかないので。やられたらもう相手の方が上だから致し方ないという思いで、あそこで勝負しようと思いました」(恩田選手)
まさに捨て切った打ちで見応えのある勝負を制した恩田は、準決勝に進むと、独特の味わいのある剣道で勝ち進んできたやはり初出場の宮戸伸之(和歌山)にもメン二本を決め、決勝に進んだ。
一方のブロックから勝ち上がったのは本大会で5年前に優勝し、毎年のように上位に進んでいる石田利也(東京)。
こちらも準決勝まではすべてメン技で勝ち進んできた。
1回戦は浦和人(兵庫)との拮抗した勝負を制し、2回戦では本大会優勝経験があり多彩な技を使う稲富政博(佐賀)を退け、準々決勝では好調ぶりを見せつけていた染谷恒治(千葉)にメン二本を見舞う。
準決勝でも大阪府警時代の後輩である江藤善久(大阪)にメン二本を決めた。
メンの勝負となると思われた決勝、試合は3分過ぎに動く。
石田が先制したのは恩田のメンに対する返しドウだった。
すると約1分後、石田の手元が上がるところに恩田がコテを返す。
そのまま試合は延長に入ったが、最後はやはりメンだった。延長に入っての初太刀、機をうかがっていた恩田が迷いなくメンに跳び込んだ。
警視庁の現役時代は、どちらかというと縁の下の力持ち的な存在だった恩田。
修徳高校卒の叩き上げでもある。
その恩田が現役時代からのスター選手である宮崎、石田の両者を破って優勝。
剣道の深さ、年齢とともに培われるものの価値を感じさせると同時に「捨て切る」こと素晴らしいメンが生まれること、その尊さを改めて認識させる試合となった。
■優勝・恩田浩司(57歳・東京・警視庁副主席師範)
東京で行なわれる寬仁親王杯剣道八段選抜大会では3度の優勝を果たしており、初出場ながら上位進出も予想されていた恩田。
捨て切ったメン技を武器に、3連覇を狙った宮崎正裕(神奈川)、毎年上位に進む石田利也(東京)らの名選手を破り、この全日本でも王座に着いた。
「初めてなので、床も体育館仕様で普段こういうところでやり慣れていないので、1回戦のときはどうかなと思ったのですが、どこでやろうと自分を見失わず、自分の剣道に徹しようと思って戦いました。この大会にいつか絶対に出たいという目標があったものですから、案内をいただいたときは本当に喜んで、自分の持てる力を出そうと、それだけでした」
「(決勝は)石田先生には東京の八段戦でも何度かお願いしていて、うまく引き出されて打たれ「しまった」と思ったのですが、時間が10分あるので気持ちを切り替えて一本に徹しようと考え、その中で自然にというか無我夢中で出たコテでした。(最後のメンは)対戦したすべての先生に対してと同様、あそこも思い切っていきました」
「職場の稽古環境もいいですし、とくに若い人と稽古する機会が多いものですから、気後れしないように心がけています。若い人たちは打たれはしても気持ちでは負けないという思いでいつも稽古をしています」